展覧会レポート
2020.11.20
何気ない日常を驚きに変える
上田薫のスーパーリアリズム
埼玉県立近代美術館にて、企画展「上田 薫」が開催中です。
展示風景
上田薫は、「スーパーリアリズム」で知られる画家です。
殻からつるりと落ちてくる生玉子や、つるんとしたゼリー、ピカピカのスプーン。本物そっくりな上田の作品を、誰でも一度は見たことがあるのではないでしょうか?
本展では、大学卒業後から現在までの作品84点を紹介。上田薫の歩みを鑑賞してみましょう。
初期作品やデザインの仕事
上田の画家への道は、東京藝術大学での油彩画専攻から始まります。
私たちが想像するリアリティあふれる作風ではなく、抽象画などを発表していました。
展示風景
1955年、上田に転機が訪れます。
国際的なポスターコンクールで国際大賞を受賞したのです。これをきっかけに、約10年間グラフィック・デザイナーとして過ごすこととなりました。
「リーバイス・デニムアート・コンテスト」ポスター(デザイン・原画:上田薫)1975年
デザインの仕事に専念していた上田ですが、1968年頃から再び絵画制作をするようになり、自らのスタイルを模索するようになります。
上田スタイルが完成するまで
上田は絵画制作を再開したものの、それまでの抽象的な表現に限界を感じていました。
そうして取り組んだのが、手元にあった貝殻を「ただひたすらリアルに描く」ということでした。
左:《コカ・コーラ B》1974年 油彩、キャンバス
右:《黒アワビ》1975年 アクリル、キャンバス
この時以降、上田は対象を見たまま描くことに集中していきました。
描くべき対象だけをとらえ、画面いっぱいに配置された構図や、背景を描かないスタイルは、この時すでに確立していました。
ひとつの貝殻が、上田流リアリズムの出発点となったのです。
「時間」「動き」をとらえた作品群
自らの表現を見つけた上田は、さまざまなモチーフを手掛けることで作品世界を広げていきます。
《ジェリーにスプーン C》1990年 油彩、キャンバス 埼玉県立近代美術館蔵
作品モチーフも、それまで描いていた貝や靴などの静止したものから、アイスクリームをすくう瞬間など、動きのあるものへと変化していきました。
展示風景より《なま玉子》シリーズ
《なま玉子》シリーズで描かれているのは、カメラがとらえた、わずか数百分の一秒ほどの時間の中でのできごとです。
ほんの一瞬のことですが、その瞬間にたしかに「時間の幅」が存在する、ということに上田は着目しています。
変化し続けるものの一瞬の姿をとらえ、「時間」を描く。上田の思考に注目です。
「光」への関心
「時間」を作品に落とし込むことに成功した上田は、次のモチーフとして「あわ」を選びます。
あわやシャボン玉などを描いていく中で、透過や反射などの「光」の性質に関心を持つようになります。
左:《あわ K》1981年 油彩・アクリル、キャンバス 水戸市立博物館蔵
右:《コップの水 G》1985年 油彩・アクリル、キャンバス 相模原市蔵
ビンやコップの水、液体など、透明な物質を描き、やがて上田の最大のシリーズ作品《流れ》が完成します。
展示風景より《流れ L》1994年 油彩、キャンバス 相模原市蔵
画面全体をひとつの水面で全面に覆うスタイルは、従来の作品にはないものです。
本シリーズは、茨城や熊本の実際の川を取材して制作されました。
作品のモチーフの撮影から完成まで屋内で行ってきた上田としては、大きな変化と言えるでしょう。
現在の上田のまなざし
さまざまなものをモチーフとしてきた上田ですが、近年では再び身近なものを描いています。
本展出品作での最新作は、2019年に制作された4点の油彩画です。
左:《デンキュウ》2019年 油彩、キャンバス
右:《コップに手》2019年 油彩、キャンバス
なんと上田薫は、もうじき92歳を迎えるそう!
展示室最後には、彼の自画像を見ることができますよ。こちらは、実際に訪れてご覧になってください。
上田薫のスーパーリアリズムが生まれるまでを総覧できる本展。
描かれたモチーフの、その瞬間しか見ることのできない一瞬の輝きや動きを、間近で鑑賞してみてください。
Information
企画展「上田 薫」
会場:埼玉県立近代美術館
会期:2020.11.14〜2021.01.11
公式サイト:https://pref.spec.ed.jp/momas/
※ご来館の際は、「お客様へのお願い」を必ずご確認ください。
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本展の招待券を5組10名様にプレゼント!
〆切は12月6日23:59まで!
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Editor | 三輪 穂乃香
【編集後記】
難しく考えなくても大丈夫。
美味しそう!とか、どんな瞬間なんだろう?とか、ワクワクする展示です。
あと、油彩ということが衝撃すぎるので、生で観てほしいです(興奮)