ミュージアムさんぽ
2020.12.1
「おびかけ編集部がゆく!ミュージアムさんぽ」とは
企画展だけではない、ミュージアムの魅力について、編集部がたっぷり取材します!
今回は、JR山手線「田端駅」を出ると正面に見える「田端文士村記念館」へ。
日本画や洋画、彫刻、工芸、文学など、かつて田端に住み、さまざまな分野で活躍した人物を紹介する記念館です。
田端文士村記念館 外観
田端は、文士・芸術家村だった?
田端は、明治時代中頃まで、閑静な農村でした。現在は「田端」と表記されていますが、江戸時代の文献には、田んぼと畑しかないため「田畑(たばた)」と、表記されていたものもあるそうです。
それまでのどかな田舎とされていた田端が、「文士芸術家村」となったのは、明治22年(1889)、上野に東京美術学校(現・東京藝術大学)が開校されたことがきっかけです。
上野とは、坂道がなく台地続きになっていたため、交通の便が良かったことなどから、美術学校に通う若者たちが田端に住むようになりました。
田端文士村記念館 展示風景より
明治33年(1900)には、洋画・日本画の双方で活躍した画家、小杉放庵(こすぎ ほうあん)などの芸術家たちが、次々と田端に住むようになります。
また、「ポプラ倶楽部」という美術家たちの社交場も誕生するなど、この当時の田端は「芸術家村」のようだったそうです。
そして大正3年(1914)、当時、東京帝国大学(現・東京大学)の学生だった芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)が、田端に住み始めます。
これをきっかけに、大正から昭和初期にかけて、多くの小説家や詩人などの「文士」が住むようになり、「文士村」となりました。
「田端ひととき散歩」でもっと詳しく!
「田端ひととき散歩」は、毎月第3日曜日(1、2、7、8月は除く)に、各回異なるテーマに沿って、文士芸術家たちの生い立ちや業績、交友などを館内で説明したあと、かつて文士芸術家が歩いた道、旧家を散策する、開館当初より続く同館人気のイベントです。
参加費無料(定員制)で楽しめる本イベント。こちらに参加すると、田端ゆかりの文士・芸術家にもっと詳しくなれるかもしれません!
路地の多い田端の道を研究員さんが、スムーズに案内してくれるので、オススメです♪
※天候によっては館内説明のみになる場合もあります。
※新型コロナウイルス感染症対策のため、令和3年(2021)3月まで本イベントは全て中止されています。
常設展示で、「田端文士村」について知ろう♪
常設展示スペースでは、「知っておきたい田端文士村」をテーマに、明治の中頃から田端に集い始めた小説家や詩人、画家、陶芸家などについて、詳しく紹介しています。
田端文士村記念館 展示風景より 常設展示スペース
陶芸家・板谷波山(いたや はざん)の陶芸窯の煙突の一部も展示されています(写真左)。
明治36年(1903)、波山は田端を制作と生活の拠点としました。その後、当時の日本では最新式だった、三方向に焚き口があるヨーロッパスタイルの丸窯を、奥さんと共に、1年余りかけて自力で築き上げたそう!
そのエピソードが元となり、この窯は「夫婦窯(めおとがま)」と呼ばれています。
展示室の端から端まで続く大きな年表には、田端文士・芸術家村に住んだ人びとについて、代表作などと共に詳しく紹介されています。
マンガ「のらくろ」で知られる、田河水泡(たがわ すいほう)も、田端に住んでいたそう!
意外な人物が暮らしてたことがわかりますよ。
芥川龍之介の家を再現した模型
こちらの注目展示は、芥川龍之介が田端で暮らしていた家の復元模型です!
田端文士村記念館 展示風景より 常設展示スペース 芥川龍之介「田畑の家」復元模型
30分の1ほどのスケールで復元されたこちらは、芥川が大正3年から昭和2年に亡くなるまで過ごした家です。
芥川邸は、昭和20年(1945)の東京大空襲により焼失してしまいましたが、こちらの模型は現存する資料を手掛かりに、可能な限り復元したものです。
この模型には、芥川のエピソードがぎっしりと詰め込まれています! その一部をご紹介しますね。
田端文士村記念館 展示風景より 常設展示スペース 芥川龍之介「田畑の家」復元模型(部分)
写真は、芥川が書斎として使用した部屋を再現したもの。芥川が愛用していた文机(ふづくえ)は、夏目漱石夫人からの結婚祝いで購入したそう!
材質は、紫檀(したん)という暗めの赤紫色で、美しく堅く、家具材にされる木です。
実は、芥川が大尊敬する夏目漱石が、この紫檀の文机を愛用していたことから、選んだのではないかと言われています。
「ココミテシート」
そのほか、芥川邸に関するユニークなエピソードは、模型の横にあるフリーペーパー「ココミテシート」に掲載されています!
こちらを見ながら、模型の中をじっくりとみてみてください♪
田端文士・芸術家をさまざまなテーマで紹介!
企画展示スペースでは、田端文士・芸術家の魅力を紹介する企画展が、年3回開催されています。
現在は、令和3年(2021)1月24日まで、「文士たちのアオハル~芥川龍之介と田端の雑誌~」が開催中です。
文士たちのアオハル~芥川龍之介と田端の雑誌~ 展示風景より
本企画展は、芥川龍之介をはじめ、室生犀星(むろお さいせい)や萩原朔太郎(はぎわら さくたろう)などが携わった雑誌の関連資料を展示し、田端文士にまつわる“アオハル”なエピソードを紹介する展覧会です。
興味深い展示があったので、ピックアップしてご紹介!
文士たちのアオハル~芥川龍之介と田端の雑誌~ 展示風景より
(左)「仙人」原稿 芥川龍之介/(右)第四次『新思潮』第1巻第6号(複製)大正5年(1916)8月 新思潮社
芥川の「仙人」は、支那(しな/中国)で、ネズミに芝居をさせる見世物師(*)の生活の憂うつな生活を描いた小説です。
展示されている原稿の冒頭部分に、赤いインクでがラクガキが! おそらく、芥川本人が描いたものだといわれています。
絵心もあったそうで、よく観てみると結構上手いと思いました(笑)。
*見世物師(みせものし):珍しい物や曲芸などを人びとに見せて、料金を取る興行。また、その出し物のこと。
文士たちの「素」の姿を映したPV?
エントランスホールでは、「現代日本文学巡礼」が放映されています。
「現代日本文学巡礼」監督/久米正雄 昭和2年(1927)改造社 こおりやま文学の森資料館蔵
本作は、昭和2年(1927)に撮影されました。当時活躍していた文士たちの執筆場面や、仕事場でのようす、趣味に興じる場面など、プライベートな部分まで収録された映像です。
特に、撮影した約2ヵ月後に自殺をした芥川の映像は、資料的に大変貴重であるとされています。
約2分間と登場時間は短めですが、庭で子どもたちと遊び、木登りをする芥川の姿からは、父親としての一面を見ることができます。
田端文士村記念館 展示風景より 常設展示スペース 芥川龍之介「田畑の家」復元模型(部分)
こちらの木登りをしている芥川は、先ほどご紹介した復元模型でも観ることができますよ!
ぜひ探してみてください。
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気になる質問! 担当者さんに聞いてみました
―田端文士村記念館の開館のきっかけを教えてください。
田端文士村記念館は、田端で活躍した文士・芸術家の功績を通じて「田端文士芸術家村」という歴史を後世に語り継いでいくことを目的として、平成5年(1993)に開館しました。
田端は昭和20年(1945)4月の大空襲を受けて壊滅したため、昔の面影はありません。
当記念館では、文士・芸術家たちの作品、原稿、書簡等の資料を展示するとともに、散策会や講演会などを開催し、その業績や暮らしぶりなどをご紹介しています。
―館内の見どころを教えてください。
100人以上の文士芸術家が田端に集い、ジャンルを問わずに交流があったという、日本でも特殊な歴史を知ることができます。
また、芥川龍之介、室生犀星といった文士と、小杉放庵や板谷波山などの芸術家たちの貴重な資料が、同時にご覧いただけるのが見どころです。
あとは、芥川龍之介が住んだ田端の家の復元模型も芥川ファンや研究者の方ばかりでなく、多くの来館者からご好評いただいています。
―展示資料の点数や、所蔵資料、研究書などの収蔵数はどのくらいですか?
絵画、美術工芸品(陶芸・鋳金・彫刻)、原稿、書簡、書、愛用品、初版本、研究書など、約8,000点を所蔵しています。
田端文士村記念館 展示風景より 常設展示スペース
―芥川龍之介記念館が開館するとお聞きしました!
現在、芥川家の旧居跡地の一部に、(仮称)芥川龍之介記念館を、整備する計画が進められています。
当館の常設展示スペースにある復元模型を見てから、芥川家の旧居跡地をご覧頂ければと思います!
あわせて、文士芸術家のことを当館で学んでから、ゆかりの地を巡ることもおすすめです。
田端文士村記念館で配布されているパンフレットには、「散策マップ」も付いています!
また、田端は鉄道の聖地でもあるので、田端運転所など車両基地も見どころスポットです!
田端文士村記念館は、常設展示、企画展示ともに入場無料!
同館は、駅から徒歩約2分のところにあります。ふらりと立ち寄って、田端で活躍した文士・芸術家たちについて学んでみては?
Information
田端文士村記念館
開館時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:
月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日と水曜日が休館)
祝日の翌日(祝日の翌日が土・日曜日の場合は、翌週火曜日が休館)
年末年始(12月29日~1月3日)
その他、展示替え等で臨時休館することがあります。
詳細は、記念館公式サイトをご覧ください。
所在地:〒114-0014 北区田端6-1-2
お問合せ:03-5685-5171
公式HP:https://kitabunka.or.jp/tabata/
公式Twitter:@bunshimura
アクセス:JR京浜東北線・山手線 田端駅北口から徒歩2分
Editor | 静居 絵里菜
入場無料なのに、田端文士・芸術家たちについてしっかり学べる記念館でした! 思わず吹き出してしまう、ユニークなキャプションにも、ぜひご注目ください。