展覧会レポート
2021.8.6
スーパークローン文化財!?
未来を切り開く新たな展覧会
そごう美術館にて「東京藝術大学スーパークローン文化財 謎解きゴッホと文化財展」が開催中です。
みなさんは、文化財保護について考えたことはありますか?
文化財とは、長い歴史の中で守り伝えられてきた文化的な財産のことです。
本展では、文化財を未来へ伝承していくための取り組みのひとつであるスーパークローン文化財技術と、その技術によってよみがえった作品を紹介。ゴッホを中心に約30点のクローン文化財を展示し、未来の展覧会について考えます。
東京藝術大学のスーパークローン文化財とは?
文化財保護は、「保存」と「公開」という問題を常に抱えています。
「保存」を重視して環境を整えた倉庫で厳重に管理すれば、経年劣化のスピードはゆるやかになり災害からも文化財を守ることができますが、「公開」をして広くその価値を伝えなければ後世まで大切に守っていこうという意識を育てることはできません。
この「保存」と「公開」問題の解決に向けて、東京藝術大学が力を入れているのがスーパークローン文化財技術の研究です。
スーパークローン文化財は、現代のデジタル技術と東京藝術大学の伝統的な模写の手仕事、感性を融合させて複製(クローン)を作る技術であり、作品の本質やそのDNAまで表現することを目指しています。
ここからは、上記のスーパークローン文化財を活用した本展覧会の見どころを編集部が厳選して紹介します♪
本展のみどころ①
フィンセント・ファン・ゴッホの色彩の秘密
フィンセント・ファン・ゴッホは視覚混合という目の不思議を利用して絵を描きました。
ここでは筆触分割(ひっしょくぶんかつ)という視覚効果を用いた技法について紹介します。
まずは近づいてどんな色がどのように使われいるのか観てみましょう!
フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》(再現)拡大写真
そこからだんだん離れていくと・・・
フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》(再現)
同じ部分でも色が違って観えてきませんか?
これは、画面上に色を隣り合わせで置いていくことで、遠くから観たときに視覚の中で混じり合い1つの色に見えるという現象です。
絵の具は直接色を混ぜると元の色より濁ってしまいますが、この方法を使うことでより輝かしい色を描くことができました。
なんとゴッホはこの技法を直感で思いついたそうです!
本展の見どころ②
3Dで見る印象派・ポスト印象派画家の個性
展示風景
印象派の絵画は、明るい色彩を用いて、外の建物や人物などをふんわりと空気で包まれた“印象”として表現しているのが特徴です。
ここでは印象派画家のマネ、ドガ、モネ、セザンヌなど計7名のクローン文化財を展示。
細部まで再現されたクローン作品のため、筆づかいや色づかい、絵の具の塗り重ね方まで間近で観ることができます。
展示風景
さらに、3D測量技術によって作品表面の凹凸を抽出。色とテクスチャーなどの凹凸を別々に観ることができる展示は、まさに未来の展覧会を想わせますね!
本展の見どころ③
夜と昼、光によって変化する見え方
作品を観るとき、「どのような環境下で描かれたか」想像したことがありますか?
フィンセント・ファン・ゴッホ《ローヌ川の星月夜》(再現)
ゴッホは夜の光の美しさに魅せられて夜景をスケッチし、薄明るいガス灯の下で《ローヌ川の星月夜》を描きました。
ここでは暗くされた展示空間の中、ゴッホが描いた当時の夜の光に近いライティングで鑑賞することにより、ゴッホの表現する光の世界をよりリアルに感じることができます。
ゴッホが本当に表現したかった色はどのようなものだったのでしょうか? 暗闇で照らされる作品の夜景は、キラキラと揺らぎながら輝いて見えました。
作品の制作環境を知り、その再現下で作品を観るおもしろさを味わうことができますよ♪
本展の見どころ④
初公開!クローン文化財でよみがえる「ひまわり」
フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》(再現)
ゴッホは「花瓶に挿された向日葵をモチーフとした油彩画」を7点も制作されたことで知られています。
このうち6点は現存していますが、1点は1945年の空襲で焼失してしまいました。今回その幻の「ひまわり」がクローン文化財でよみがえります!
失われた「ひまわり」はどのようにしてよみがえったのか?東京藝術大学の高度な技術研究の過程を動画でわかりやすく解説します。
フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》(再現)拡大写真
オリジナルと同素材、同質感を目指して再現された幻の「ひまわり」が観れるのはこの機会だけ!?
謎解き解説も含めて、いろんな角度から作品の理解を深めることができます。
歌川広重《東海道五十三次 日本橋 朝之景》3DCGアニメーション
その他にも、浮世絵師・歌川広重の「東海道五十三次 日本橋 朝之景」に登場する大名行列の人々が動き出す3DCGアニメーションや4K浮世絵アニメーションなど、新しく斬新な切り口で作品を紹介します。
絵の中の登場人物たちが、目の前で動き出す日が来るとは思いませんでした・・・。
クローン文化財からなる本展はほとんどが撮影可能! 作品を傷つけないマナーを守りながら、いつもより近くで鑑賞することができるのも特徴です。
会期中、小中学生向けの夏休み特別企画も開催されます。クローン文化財から学んだ巨匠の技術を夏休みの絵画や自由研究に活かしてみてはいかがでしょうか?
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東京藝術大学スーパークローン文化財
謎解き「ゴッホと文化財」展
つくる文化∞つなぐ文化
2021.07.31~2021.08.31
開催終了
そごう美術館
Editor|松栄 美海
【編集後記】
初めて観る日本の高度な複製技術に驚きました!