Be-dan
2021.9.20
今月のBe-danは、NPO法人ARDA(アルダ)所属・田辺梨絵(たなべりえ)さんにインタビュー!
田辺さんは、数々の対話型鑑賞会でファシリテーターを務めています。
第3回では、田辺さんがこれまで開催してきた対話型鑑賞会で印象に残っていることをお聞きしました。
(第2回はコチラ)
田辺梨絵さん ※撮影時、マスクを外していただきました。
―対話型鑑賞では、さまざまな発見や気づきがありそうです。
田辺さんご自身もワークショップを通じて、発見したことはありましたか。
今振り返ると、前職の上司がワークショップに参加してくれた際に、改めて「作品の見え方が変わる」対話型鑑賞の魅力に気づかされたように思います。
元上司はアートに対して興味があるほうではなかったため、作品を見て自分が何か感じられるのか不安なまま参加してくれました。しかし、ワークショップが終わると「アート作品を見てこんなにいろんなことを感じられる自分にびっくりした」と話してくれました。
また、「見え方はガラリと変わるけど、それがさも初めから自分もそう思っていたように見えた」と言っていたのも興味深かったですね。
対話型鑑賞では、他の参加者の意見を聞いたとたん、作品の見え方がガラリと変わる瞬間があるんです。
その元上司は「そういう見方もある」ではなくて、最初からそう思っているくらい自然に見え方が変わるという体験をしたのだと思います。
―面白い! その感覚は、体験してみないとわからないですね。
このように作品の見え方が変わる瞬間も面白いのですが、他人の意見や考えを聞くことで“自分の考え”が湧いてくるという感覚が体験できるのも、魅力のひとつかもしれません。
自分の考えは似ているけどここが違うとか、私にはこう見えるとか、他人の話を聞けば聞くほど“自分”の輪郭がはっきりと際立ってくるんです。
しかも、それを誰もが言わずにはいられないという(笑)。
対話を行うことで、次々と新たな疑問や気持ちが生まれ、何かを感じている“自分”をはっきりと自覚できるというのはとても面白いと思います。
田辺梨絵さん ※取材時は十分な距離をとってインタビューを行いました。
―これまでで特に印象に残っている対話型鑑賞のワークショップはありますか。
今年3月に東京都渋谷公園通りギャラリーで行った「インナー・ランドスケープス、トーキョー」のオンライン対話型鑑賞会です。
対象となる作品が、高齢者の方々にインタビューを行い、その生き様や心象風景を写真や陶器で表現したものだったので、対話型鑑賞だけにとどまらず、参加者自身のインナー(内面の)ランドスケープ(風景)も語ってもらえるワークショップにしたいと企画を練りました。
『インナー・ランドスケープス、トーキョー』より 手前:Satoko Sai + Tomoko Kurahara(陶芸作家ユニット)による陶器作品
当日、鑑賞後に「自分のインナー・ランドスケープをかたどった器があるとしたらどんな器だと思う?」と参加者に質問したところ、かけがえのない想い出や人、場所、それらを取り囲む心情や感覚についてお話を聞くことができました。たとえ断片的で一瞬であってもお互いの人生に触れることができ、一つひとつを「愛しい」「大切にしたい」と思う温かい感情が参加者全体に湧き起こっているように感じました。
友達や家族でなくても、他者の人生の一片に触れ、その人自身の言葉を聞くことで相手を大切に思える。こういった表面的ではないコミュニケーションを私は求めているし、それをワークショップで実現できた印象深い出来事になりました。
―素敵なワークショップですね。田辺さんが、ワークショップを目指す中で、大切にしていることがあれば教えてください。
私自身、対話型鑑賞の師匠によるワークショップで、自分が感じていることを言葉にした時に、それをしっかりと理解した上で受け止めてもらえて、とても嬉しかった経験があります。伝えたいことが人に伝わる、それをしっかりと受け止めてもらうことがこんなにも嬉しいことなんだと、その時あらためて実感しました。
だからこそ、参加者の方々が感じていること、考えていることを大切にし、それぞれが感じていることを言葉にしようとする努力に敬意を払って伴走するよう心がけています。
対話型鑑賞を通して、仲間とともに新しい自分が発見できそうな田辺さんのワークショップ、参加してみたいですね!
第4回では田辺さんが、対話型鑑賞以外で行っている活動や今後の展望について詳しくお聞きします♪
(第4回につづく)
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Editor | 松栄 美海
OBIKAKE編集部所属。
Writer | 岩本 恵美