展覧会レポート
2022.4.26
「線」から紐解く?!
天才ピカソの生涯を辿る展覧会
展示風景より
パナソニック汐留美術館にて、「イスラエル博物館所蔵 ピカソ ― ひらめきの原点 ―」が開催中です。
パブロ・ピカソ(以下ピカソ)は多くの方に馴染みのある画家ではないでしょうか?
本展はピカソの初期から晩年の作品を通して、その生涯を辿る展覧会です。
本記事では、ピカソの「線」に着目した楽しみ方を章ごとにご紹介します!
線の引き方からはピカソの心の中がとてもよく見えてきます。それでは早速、ピカソの「線」を一緒に辿っていきましょう!
第1章
ピカソと聞くと「色鮮やかな色彩と力強い線の画家」「確固たる個性を持った天才」といった印象を抱く方も多いのではないでしょうか。
しかしそんなピカソの”ひらめきの原点”は、紙に溶け込むほど細やかに引かれた線や、当時有名だった絵画表現の模倣に始まりました。
第1章の展示風景より
20歳頃の作品を紹介した第1章は、そうしたひらめきの息吹を感じさせます。
病気に罹ったり、親友が自殺したり、自分の内面の激しさに戸惑ったり。うっすらと細やかに引かれた線に垣間見えるわずかな震えは、そんな若きピカソの生の鼓動を感じさせます。
悲しい経験をたくさんした若きピカソですが、恋もしたようです。
25歳のピカソが描いた《お針子》。まろやかなピンクやふんわりとした白で恋人を包むように描いた作品は、心の華やぎを感じさせます。ピカソも私たちと同じ心の華やぎを感じることに、親近感が湧くかもしれませんね。
第2章
つづく第2章では、30〜40歳頃の作品が紹介されています。
第2章は、第1章と同じ細やかなたくさんの線の作品に始まります。しかし、第1章と大きく異なるのは、線の勢いや濃さ、色の強弱がよりはっきりと出てきていること。そして、直線による角張った表現が出てくること。
どんなときも好奇心を忘れず、新しい表現をたくさん取り入れ、試してきたピカソ。10年をかけて、ようやく「キュビスム*」という新しい表現を生み出します。その生みの苦しみや探究心が垣間見える作品を紹介しているのがこの章です。
*ものをパーツごとに様々な角度から捉え、それらを1枚の作品に収める描き方。角張った表現が特徴。
20代の全力の苦悩や必死のもがきが30代には小さな自信に変わり、40代になって確信に変わっていく様は、この章の最初の作品《マンドリンを弾く男》から《ギターのある静物》にかけて明確に見て取れます。
《ギターのある静物》は、よもや第1章の線を描く人物と同じ人物が描いたとは思えないほどの線の力強さ、色の鮮やかさ、形の明確さで描かれています。
自ら生み出した表現「キュビスム」を手に、ピカソは駆け抜けるようにその後の人生を描いて行きます。
第3章
第3章の展示風景より
第3章では、40~50歳頃の作品が並びます。
ピカソが40代で生み出した角張った表現に、20代のときのようなしなやかさが加わります。
素早く描かれた丸みのある線。そこにはもう若き頃の迷いや震えはなく、伸びやかな線が画面全体に広がっています。
ピカソは40代半ばでも恋に落ち、《顔(マリー=テレーズ)》ではふんわりとしたやさしい線とおだやかな陰影で女性を描いています。
ピカソは恋に落ちた時の作品だけは、他の作品とは違った線の引き方をしています。
第1章の《お針子》も《顔(マリー=テレーズ)》も、線の描き方に恋心が滲み出るようですね。
第4章
第4章の展示風景より
第4章は、50〜70代の頃の作品が紹介されています。
この頃は、ピカソの出身国スペインで内戦が起きたり、新恋人ができたりした時期でした。
ピカソは《フランコの夢と嘘 I、II》など政治的な作品を発表し、《女の頭部》など気性の激しい新恋人の顔を激しい筆遣いによって表現した作品を発表しました。
第5章
第5章では、80歳以降の作品が展開されています。
細やかな線に始まり、キュビスムを生み、しなやかさが加わった後、また角張った表現に戻り…と様々な変遷を繰り返してきたピカソの画風。
この章では、角や丸みなど、これまでのピカソの多様な線の描き方が調和した作品が紹介されています。
会場の最後にはピカソの写真が展示されています。
写真は「ピカソは異次元の存在ではなく、私たちと同じ生身の人間であること」を感じさせてくれます。
巨匠ピカソの”ひらめきの原点”は、生まれながらに持っていた才能ではなく、生きることへの苦悩や喜びからきていたのかもしれませんね。
イスラエル博物館のピカソ作品が初来日した貴重なコレクション。
ぜひ足を運んでみてください♪
イスラエル博物館所蔵
ピカソーひらめきの原点ー
2022.04.09~2022.06.19
開催終了
パナソニック汐留美術館
Writer|丸山 琴
玩具デザイナー。名画の続きを描くぬりえ「ヨンブンノサン」開発者。感動屋目線で辿る展覧会の見どころを連載中。