Be-dan

河野館長と吉田学芸員が語る
「江戸のエナジー 浮世絵と風俗画」展の見どころとは?(2/4)

2020.12.14

今月のBe-danは、静嘉堂文庫美術館・河野元昭(こうの もとあき)館長にインタビュー!

第2回では、12月19日に開幕する展覧会「江戸のエナジー 浮世絵と風俗画」について、企画を担当された学芸員・吉田恵理(よしだ えり)さんもお招きし、展覧会の見どころをたっぷりとお聞きしました。

(第1回はコチラ

 

左:河野元昭館長

右:「江戸のエナジー 浮世絵と風俗画」担当学芸員・吉田恵理さん

 

開幕をとても楽しみにしている方も多いと思います。見どころは数多くあると思いますが、「ぜひ見てほしい!」というおすすめの作品をお聞かせください。

 

吉田学芸員:実は、静嘉堂が美術館の活動を30年続けてきた中で、近世初期風俗画から浮世絵へ、という流れで展覧会を行うのは、今回が初めてなんです。初公開の作品もたくさんありますよ。

 

まずは、静嘉堂の所蔵品としてよく知られている、英一蝶(はなぶさ いっちょう)の「朝暾曳馬図(ちょうとんえいばず)と、円山応挙「江口君図(えぐちのきみず)です。

 

英一蝶の「朝暾曳馬図」は、田園風景の中で朝日が昇る頃、少年が馬をひいているという、当時の庶民の何気ない暮らしぶりが描かれています。

こういった一蝶独自のユニークなまなざしは、17世紀に江戸で生まれた浮世絵にも通ずるところがあります。

 

英一蝶「朝暾曳馬図」江戸時代(17世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵

 

「江口君図」を描いた円山応挙は、18世紀の京都で活躍し、❝円山四条派❞の祖として有名な画家です。写生画にすぐれ、京都画壇が写生一色になるほど、強い影響力を持っていました。

 

江口君とは、謡曲(*)「江口」に登場する遊女で、普賢菩薩(ふげんぼさつ)の化身です。本作は、応挙の写実力が発揮された、亡くなる前年の稀少な美人画です。応挙の美人画の型は、円山四条派を中心に上方(*)の美人画に影響を与えました。

 

*上方(かみがた):江戸時代の京都や大阪、その付近一帯を意味する言葉。

*謡曲(ようきょく):脳の脚本である「謡本(うたいぼん)」を、文学作品としたときの総称。

 

円山応挙「江口君図」寛政6(1794)年 静嘉堂文庫美術館蔵

 

ちなみに、応挙よりも前、やはり京都で活躍した西川祐信(にしかわ すけのぶ)の初公開の美人画「女通玄(おんなつうげん・見立張果老図)」も、美人を中国の仙人に見立てたパロディーです。

祐信は、江戸の浮世絵版画の創始者である、鈴木春信にも影響を与えた絵師です。こちらもぜひ、ご注目ください。

 

―本展ではプロローグに、一蝶と応挙の2点を展示されるそうですね。

 

吉田学芸員:はい。今回はお客様が展示室に入って、最初に目にするスペースに、この一蝶の「朝暾曳馬図」と応挙の「江口君図」を、並べて展示します。

 

17世紀江戸で活躍した一蝶と、18世紀京都で活躍した応挙、というふうに、2人は時代活躍した場所も違う画家です。

しかし両者とも、庶民が楽しめる、あるいは、庶民が求めた絵を描いているのです。

 

1つの展覧会のプロローグに、この2点をもってくることは静嘉堂でしかできないことです。

 

―静嘉堂の名品が一堂に展示される、とても豪華な展覧会ですね。

 

吉田学芸員:その先では、重要文化財「四条河原遊楽図屏風(しじょうがわらゆうらくずびょうぶ)」や、初公開の浮世絵をご覧いただく構成になっています。

 

重要文化財「四条河原遊楽図屏風」江戸時代(17世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵

 

静嘉堂という1つのコレクションで、風俗画から浮世絵へ、という江戸絵画のダイナミズム、江戸のエナジーを感じていただければと思います。

また、静嘉堂の名品と、いわゆる❝庶民の美術❞とされた浮世絵が、どう響き合うのかという点については、私自身も楽しみです。皆さまと一緒に観てみたいです。

 

 

河野館長:江戸で活躍した一蝶と京都で活躍した応挙や、風俗画から浮世絵への流れは、調査を担当した吉田さんならではの展示で、非常に面白いと思います。

特に最初に、一蝶と応挙の2つの作品を持ってきた点は大変ユニークな構成ですよ。

 

これに限らず、美術品というものは、できれば所蔵する美術館で観てもらいたいと思っています。そこには歴史や、コレクターの熱い想いがありますから。

 

静嘉堂文庫美術館には、国宝7点重要文化財84点を含む、6,500点もの美術品と、20万冊もの本があるので、基本的に ❝自前主義❞で、コレクションをベースに展覧会を企画しています。

 

 

お客様に楽しんでもらえるように、ここに来てよかったなぁと思ってもらえるように、毎回、学芸員が知恵を絞って取り組んでいます。ぜひ、本展もお楽しみください。

 

 

企画を担当された吉田学芸員ならでは、そして静嘉堂文庫美術館ならではの見どころ、ぜひ展示室で注目してみてください!

 

第3回でも、引き続き「江戸のエナジー 浮世絵と風俗画」展についてご紹介します。

普段はなかなか聞けない、展覧会を企画する裏側大切な資料の調査についてなど!

吉田学芸員にたっぷりとお聞きしました。

 

次回のBe-danもお楽しみに!

(第3回につづく)

 

information

展覧会名:江戸のエナジー 風俗画と浮世絵

館名:静嘉堂文庫美術館

会期:2020.12.19〜2021.02.07

開館時間:10:00-16:30

休館日:月曜日(ただし、1/11は開館)、1/12
年末年始(12/28~1/4)

料金:一般1,000円、大高生700円、中学生以下無料

展覧会詳細ページ:https://obikake.com/exhibition/6665/

公式サイト:http://www.seikado.or.jp/

 

 

★他のインタビュー記事を読む

「TOKYO CULTUART by BEAMS(トーキョー カルチャート by ビームス)」

ショップマネージャー兼ディレクター・小川喜之さん

第1回第2回第3回第4回

 

国立歴史民俗博物館教授・横山百合子さん

第1回第2回第3回第4回

 

★その他のインタビュー記事はコチラ

OBIKAKEをフォローする

Editor | 静居 絵里菜

OBIKAKE編集部所属。

 

Writer | naomi

採用PR・企業広報職、Webメディアのディレクターなどを経て、アート&デザインライターに。
作品と同じくらい魅力的な、作家の人となり・ストーリーも伝えたくて書いてます。
好きなもの・興味関心と守備範囲は、古代文明からエモテクのロボットまでボーダーレスです。

note  https://note.com/naomin_0506

この記事をシェアする
一覧に戻る
TOP