展覧会レポート
2020.12.26
古今東西の美の交流を読み解く
サントリー美術館珠玉のコレクション
サントリー美術館にて「リニューアル・オープン記念展 Ⅲ 美を結ぶ。美をひらく。美の交流が生んだ6つの物語」が開催中です。
エミール・ガレ《壺「風景」》1900年頃 ※作品はすべてサントリー美術館蔵
古いものと新しいものが時代の枠組みを越えて結びつく。
異なるもの同士が結びつき、新しい美が生まれることは美術の本質であり、そのことによって、昔も今も、魅力的な作品が生み出されています。
では、日本ではどんな美が結び、ひらくことで芸術が生まれてきたのでしょうか?
本展では日本美術を軸に、6つの物語を、サントリー美術館の珠玉のコレクションから紹介します。
ヨーロッパも魅了された古伊万里
伊万里焼は、肥後国・有田地方(現在の長崎県、佐賀県)で生産された磁器のことで、白くてツヤがあり、模様が美しいやきものです。
古伊万里が本格的に輸出されるようになったのは17世紀後半以降。ヨーロッパ諸国の王や貴族を魅了していた中国磁器が、情勢悪化により輸出が激変したことがきっかけでした。
そこで代わりに古伊万里が本格的に海外へ輸出されるようになったのです。
展示風景より左:《藍色ちろり》江戸時代 18世紀
右:《色絵花鳥文六角壺》一合 江戸時代 17世紀
《色絵花鳥文六角壺》は、その名の通り、六角形の壺です。正確な六角形に色とりどりの花や鳥が描かれたこの壺は、ヨーロッパの貴族から大変人気を博したそう。
ヨーロッパから東洋へ向けられた熱い視線によって、急速に発展していった輸出古伊万里。
数十年後にドイツ・ドレスデンで誕生するマイセン磁器にも大きな影響を与えました。
将軍家への献上で研ぎ澄まされた鍋島
鍋島とは、江戸時代に鍋島藩(現・佐賀県)で作られた高級磁器のことです。海外向けの古伊万里とちがって、こちらは国を治める徳川将軍家への献上品や、藩の贈答品などとして使われていました。
バランスのとれた色彩や力強い構図、豊富な絵柄など、そのデザイン性の高さが鍋島の魅力のひとつです。献上先もその美しさに驚いたことでしょう。
重要文化財《染付松樹文三脚大皿》江戸時代 17~18世紀
《染付松樹文三脚大皿》は、墨弾きという技法を使うことで生まれる「白抜き文様」が特徴です。
細い線墨線を繰り返し正確に重ねていくことで生まれる墨弾きの文様は、お皿一枚にかなりの手間をかけられており、作り手の情熱が感じられます。
献上・贈進のため、常に高い品質を維持することが不可欠だった鍋島。
そのことが結果として鍋島を洗練された美しさを持つやきものへ成長させたとも言えるでしょう。
東アジア文化が溶け込んだ琉球の紅型
琉球(現・沖縄県)は、15~19世紀にかけて栄えた王国です。貿易の中継地点だったことで、中国や日本、東南アジア諸国などの宝物や文化が集まり、琉球独自の美術が生まれました。
なかでも琉球を代表するものが「紅型(びんがた)」は、型紙を使って、色と模様を染め出す染織物です。その鮮やかな色彩とモチーフは、今でも沖縄を象徴する染め物として、広く知られています。
Story3 東アジア文化が溶け込んだ琉球の紅型 展示風景
本展では紅型の裂地(きれじ)コレクションと、紅型をつくるための型紙を展示。
太平洋戦争で多くの紅型衣装が失われてしまった現在、紅型の繊細な技を伝える大切な資料を間近で見ることのできる、貴重な機会ですよ!
西洋への憧れが生んだ和ガラス
日本で本格的にガラスのうつわが作られるようになったのは17世紀中頃、長崎が始まりと考えられています。
ポルトガルやスペインの船が日本を訪れるようになったこの16世紀中頃、宣教師たちが権力者に献上した珍しい品々のなかに、ガラス器も含まれていたのです。初めて目にした日本人にとって、その実用性や装飾性は、大変な驚きだったといいます。
そして江戸時代、『びいどろ』や『ぎやまん』と呼ばれる和ガラスが生まれました。
Story4 西洋への憧れが生んだ和ガラス 展示風景
幕末、ガラス産業に力を入れていた薩摩藩(現・鹿児島県)は日本初となる紅色ガラスに挑戦し、成功します。
青や紫と比べて、赤色を透明かつ均一に出すのはとても難しい技で、よ~くみると、赤がところどころまだらになっているのがわかります。
ヨーロッパのガラス器への憧れを追求したことで生まれた美を、ぜひゆっくり鑑賞してみてください。
東西文化が結びついた江戸・明治の浮世絵
大衆文化を背景に生まれた浮世絵版画。
プロデューサーである版元を中心に、絵師・彫師・摺師が一体となって作り上げた浮世絵は、多くの人々を惹きつけ、江戸の「今」を描きました。
常に最新のモードを反映した浮世絵は、文明開化が始まると、西洋の文化を次々に取り入れ、新しい画風がどんどん生まれます。
展示風景より左:小林清親《高輪牛町朧月景》大判錦絵 明治1年
右:小林清親《隅田川夜》大判錦絵 明治14年【いずれも展示期間:12/16~1/18】
《隅田川夜》は、浮世絵版画でありながら、西洋風の光と影を表す描き方が施されています。
本作は小林清親による「光線画*」と呼ばれるもので、西洋絵画や写真の陰影・明暗の表現を用いており、当時の多くの人々を魅了しました。
文明開化は、それまでの人々の価値観を大きく変え、当時の主流であった浮世絵のスタイルをも変えていきました。
異文化を独自の表現に昇華したガレ
アール・ヌーヴォー期を代表するフランスの芸術家エミール・ガレ。
万国博覧会が盛んだった19世紀に、世界のさまざまな文化を目にし、影響を受けながら、より洗練された作品を制作しました。
もちろん、日本の美術作品からも大きな影響を受けます。
エミール・ガレ《壺「風景」》一口 1900年頃
新収蔵品である壺《風景》は、森を抜けた先の人里の風景を表現した作品で、1900年パリ万博のころ、絶頂期のガレの作品です。
ガレの作品には、時代をそのまま映し出すかのような、国やジャンルの枠を超えた、独自の美が宿っています。
また、本作は今回が初公開! 暗い森にフッと浮かび上がるような演出にも注目です。
移転開館以来、「美を結ぶ。美をひらく。」をミュージアムメッセージとしてきたサントリー美術館。
6つの物語は、ジャンルも時代もさまざまですが、ひとつひとつ作品を観ながら、美がどのように結ばれたのか、そしてひらいたのかを感じ取ってみてください。
Story1 ヨーロッパも魅了された古伊万里 展示風景
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本展の招待券を5組10名様にプレゼント!
〆切は1月10日23:59まで!
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美を結ぶ。美をひらく。美の交流が生んだ6つの物語
2020.12.16~2021.02.28
開催終了
サントリー美術館
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Editor | 三輪 穂乃香
【編集後記】
特に好きだったのが、ガラスの文房具。眼福です・・・!!