展覧会レポート
2021.8.30
国内外を行き来しながら制作する陶芸家・中里隆。
60年におよぶ創作の歩みをたどる展覧会です
菊池寛実記念 智美術館にて「中里隆 陶の旅人」が開催中です。
展示風景
中里隆(なかざと たかし/1937-)は、佐賀県・唐津(からつ)に工房と窯を構えながら、国内外を行き来し、各地に一定期間滞在して制作するという、独自のスタイルで活動している陶芸家です。
幅広いスタイルの作品は、唐津焼*をルーツとしながら、伝統や規範の枠に収まることなく磨かれた技法で制作されたものです。
日常使いの器や繊細かつ斬新なかたちの瓶や花入、迫力ある大壺など。
各地での出会いや日常を楽しみながら、のびやかに作品を生みだしつづけてきた中里の作品を、新旧100点あまりで堪能できる展示となっています(会期中展示替えあり)。
*唐津焼:16-17世紀、朝鮮半島より九州の唐津に伝わった技をもとに生まれたやきもの
土の風合いが活きた「種子島焼き」「唐津南蛮」
展示風景
会場に入るとまず目を引かれるのは、「種子島焼」や「唐津南蛮」の器や食器の数かずです。
日常使いの器は、いずれも素朴で味わい深い魅力を放っています。
種子島擂鉢(すりばち)1971年
唐津の名門陶家に生まれた中里は、唐津や京都で陶芸を学んだ後、1971年に鹿児島県の種子島へ渡って窯を作りました。
そして、種子島の土を使った焼締め陶*を作りだすことに成功。1974年に唐津に戻ると、今度は唐津の土を用いた焼締め陶、「唐津南蛮」を手がけます。
「唐津南蛮」は、現在にいたるまで、中里の主要な作風のひとつとなっています。
*焼締め(やきしめ):釉薬(ゆうやく)をかけずに高温で焼いた陶器のこと。薪窯を使って焼かれ、自然に降る灰や焔による焼け色を特徴とする
世界各地の素材や窯を用いて作りだされた多様な作品
1980年代に入ると、中里の活動は世界へと広がっていきます。
30歳前後には、欧米や中近東、東南アジアなど各地のやきもの造りを視察。各地の窯場や教育機関に滞在して、その地の土や釉薬、焼き方などを柔軟に取り入れながら制作するスタイルを確立しました。
錆朱波文提瓶 2017年
1990年代からは、デンマークのロイヤルコペンハーゲン*窯や、アメリカ・コロラド州のアンダーソンランチ・アートセンターなどの各地で滞在制作や指導を続けています。
旅した土地の窯を使ってさまざまな焼き方を試みるなかから、それまでの唐津焼にはなかった俵壺や提瓶、くわい形瓶などの作品が生まれました。
*ロイヤルコペンハーゲン:デンマークの老舗メーカー。コバルトブルーの陶絵具を用いた磁器で知られる
迫力ある鉢や壺!
他分野の人びととの交流から生まれた作品も展示
中里の周りには、その作品や人柄に惹かれた人びとが集い、画家、音楽家、文筆家など他分野の作家との交流が育まれてきました。
会場には、画家の有元利夫(ありもと としお/1946-1985)が手がけた陶人形など、そうした交流から生まれた関連作も展示。展示室の空間に取り合わせられた中里作品との競演は必見です。
展示風景
展示の最後、中里が長年取り組んできた大壺のコーナーも見逃せません。
独学で学んだ技法によって作られる中里の大壺は、底が狭く、胴と口の部分が張り出した、独特のかたちをしています。2017年、80歳の時制作された大壺も出品されており、歳を重ねても精力的に制作を続ける作家のエネルギーの象徴のような大作となっています。
展示風景
これまで、アメリカの美術館での展覧会や個展での作品発表は行われてきましたが、国内の美術館で展覧会が催されるのは、本展が初めてとのこと!
会場の一角では、唐津の「隆太窯」での仕事の様子や日常の生活風景のスライドが上映されています。BGMは、小鳥のさえずりや小川のせせらぎ。山あいの工房で仕事に打ちこんだあとは、散歩がてらに市場へ。自らさばいた魚や料理を乗せた器が食卓を彩ります。
豊かな日常を楽しみながら、作陶に打ちこんできた中里隆が手がけた幅広い作品を鑑賞できる貴重な機会です。ぜひ足を運んでみてください。
OBIKAKE gifts
本展の招待券を5組10名様にプレゼント!
〆切は2021年10月19日23:59まで!
★その他の展覧会レポートはコチラ
Writer | 桐谷きこり
2児の母・兼ライターです。アートやカルチャー、お出かけスポットなどを中心に、“心ときめく場所・人・モノ”についての記事を執筆・発信中!