展覧会レポート
2021.9.15
個性豊かなデミタスカップ
選りすぐりの380点を展示
渋谷区立松濤美術館にて「デミタスカップの愉しみ 」が開催中です。
展示風景
みなさんは、「デミタスカップ」を知っていますか?
「デミタス(demitasse)」とは、フランス語で「demi=半分の」「tasse=カップ」という意味で、濃いめにいれたコーヒーを飲むための小さなコーヒーカップのことです。
デミタスカップは、ヨーロッパでテーブルウェアと食文化の様式が確立した19世紀、テーブルウェアのひとつというだけでなく、カップ単独でも使用される異色な存在として現れました。
この頃のヨーロッパでは、中産階級のあいだにコーヒー文化が浸透し、焙煎・抽出技術も進展。多様なコーヒーの楽しみ方が広がるにつれて、デミタスカップの需要も増え、さまざまなデザインが誕生したといいます。
本展では、2000点以上のデミタスカップを所蔵する村上和美氏のコレクションから、約380品を厳選して紹介!
時代ごとの変遷と、装飾や機能、形などの豊富なデザインの視点から、多彩なデミタスカップを観ることができます。
時代ごとの変遷がわかるジャポニスムのデミタス
展示風景
第1部では「デミタス、ジャポニスムの香り」と題し、18〜20世紀のヨーロッパにおけるデミタスカップのデザインの移り変わりをたどります。
「ジャポニスム」とは、西洋で流行した日本趣味のことです。
19世紀の半ば以降、万国博覧会に出品された日本の美術品がブームとなり、日本の絵画や工芸品に見られる図案や文様、技巧に影響を受け、吸収して生み出された様式が西洋で次々と生み出されました。
ミントン(イギリス)《金彩梅花と格子文カップ&ソーサ―》1882年 村上和美氏蔵
「ジャポニスム」といっても表現はさまざま!
花鳥や梅・桜、植物・昆虫などの日本の伝統的なモチーフが描かれ、ソーサー(*)や取手にも細やかにデザインが施されています。
*ソーサー:カップの下に置かれる受け皿のこと。洋食器では、マグカップを除く全てのカップにソーサーがついています。
ジャポニスムのデミタスカップ以外にも、アール・ヌーヴォー、アール・デコのデミタスカップ、さらには、明治以降の九谷焼やノリタケによる日本製のデミタスカップも!
展示風景
特に日本製のデミタスカップは、小さなカップに風景や人物が描かれ、透彫(*)などの技巧をこらした作品が多く、1点ずつ横からも上からもじっくりながめたくなります。
*:透彫(すかしぼり):金属・木・石などをくりぬいて文様をつける技法。
文様や色を独自に組み合わせたデミタスカップ。さまざまな様式のデミタスカップを比較しながら鑑賞することで、それぞれの美の世界がより堪能できます。
豊富なデザインのバリエーション
第2部では「デミタス、デザインの冒険」と題し、デミタスカップの装飾方法や形、機能、素材などを切り口に、バリエーション豊かなデミタスカップを紹介します。
展示風景
ガラス製のデミタスカップは、繊細な装飾と鮮やかな色に注目です!
展示風景
形の自由度を実感する背の高いデミタスカップや、「テニスセット」と呼ばれるソーサーにスナックをのせてひとつの器で持ち運べる機能的なセットもあります。
野菜やフルーツなどのユーモアあふれる独特な装飾や大胆な形もあり、1点1点驚きの連続です!
展示風景
中でもカップの内側に繊細な絵が描かれているデミタスカップは、上から覗ける展示になっており、カップの中の小さな世界をじっくり見ることができます。
コーヒーが注がれて見えなくなってしまう内側になぜこれほどの装飾をしたのでしょうか?是非、考えながら鑑賞してみてくださいね。
コールポート(イギリス)《金彩花鳥文カップ&ソーサー》 1800年代後期 村上和美氏蔵
どれひとつとして同じものはなく、絵柄や形、ハンドルのデザインも異なる約380点ものデミタスカップからなる本展。
デミタスカップを所蔵する村上和美氏は、有名な窯に限定せずに、好き、面白いなど創造性の輝く作品に注目して収集してきたといいます。
実際に全てのカップにコーヒーを注ぎ、持った感触や口当たりも堪能されてきたとか。収集家の背景を想像することでより楽しめそうですね!
鑑賞しながら、自分のお気に入りを選んでみたり、当時の人たちを思い浮かべてみたり・・・。
小さなデミタスカップの世界に広がる華やかで美しい世界を、是非味わってみてはいかがでしょうか。
※土曜日、日曜日、祝日および本展会期最終週は日時指定制です。詳細は、館公式のホームページをご確認ください。
OBIKAKE gifts
本展の招待券を5組10名様にプレゼント!
〆切は2021年9月22日23:59まで!
★その他の展覧会レポートはコチラ
Writer | 鈴木 有子