展覧会レポート
2019.8.22
「アート」という闘いかたとは?
ポーランド女性作家たちの映像表現に注目
2019年は、日本・ポーランド国交樹立100周年。
東京都写真美術館では、「しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像 1970年代から現在へ」が開催中です。
数多くの男性の名によって語られてきた、20世紀のポーランド美術史・映画映像史。
が、21世紀のポーランドにおいては、女性たちによる多くの表現がひときわ存在感を放っています。
本展では、1970年代からの約50年間のポーランド美術の歩みを、これまで十分に語られてこなかった、女性作家たちの、映像を用いた表現の先駆例に改めて焦点を当てながら、新たな視点で読み解きます。
ベルリンの壁崩壊後いっきに東側に流れ込んできたグローバル経済の波への参画、EU加盟などの影響も作品から伺うことができるでしょう。
展覧会の構成とともに、いくつか作品紹介をしていきます。
Ⅰ 限られたアクセスのなかで ― パイオニア世代の映像実験 1970-80年代
東西冷戦時、女性アーティストたちはきわめて制限された環境下で、さまざまな映像表現を試みていました。
共同キュレーターであるマリカ・クジミチ氏(アルトン財団代表)とともに、近年のリサーチの成果を紹介しています。
ナタリア・LL(ラフ=ラホヴィチ)[1937-]
《消費者アート》1972年 写真パネル
©Natalia LL / Courtesy of lokal_30Gallery, Warsaw
1975年に国際的なフェミニスト運動に加わり、数多くのシンポジウムや展覧会に参加した、ナタリア・LL。
彼女の作品は当時スキャンダラスなものを見なされ、展覧会は検閲の対象でした。
当時ぜいたく品だったバナナを、消費する悦びを隠そうとしない女性像は、性的な連想を誘うのみならず、保守的なポーランド社会が求めるものとはかけ離れたものでした。
Ⅱ-1. 転換期 ― クリティカル・アート潮流とともに 1990年代以降
民主化を果たしてからのポーランドは、格差の拡がりや価値観の変化を経験します。そんな時代に顕著に現れた「クリティカル・アート」(社会批評的な表現)。
誰もが気づいていながらも直視しない、人間性の闇の部分に果敢に迫り、作品によって露わにするという傾向がみられます。
カタジナ・コズィラ[1963-]
《罰と罪》2002年 7チャンネルヴィデオ、カラー、サウンド(尺数多様[ループ])Courtesy of the artist
最近、日本でも普及しているサバゲー(擬似的な戦闘)。
実際に大量の火器、銃器を用いて訓練を展開している男性たちに取材したこの作品は、サバゲーをテーマにしながらアクション映画のような迫力があります。
男性たちにグラビアモデルをかたどったマスクをあえて被らせ、暴力の批判のみならず、誰にでも潜在し得る理由なき破壊衝動を表現しています。
Ⅱ-2. 過去と未来への視点 2010年代以降
一定の距離をもって、過去を新しい視点で検証することで現在を読み解き、未来への視点を探ろうというアーティストたちがいます。
彼らの多くは、幼少期を社会主義政権下で過ごし、高等教育は民主化後に受けています。
複雑化する情勢を批判的に見つめつつ、映像表現としての豊かさにも挑戦した作品が生み出されつづけています。
カロリナ・ブレグワ[1979-]
《嗚呼、教授!》2018年 シングルチャンネル・ヴィデオ、カラー(6分)Courtesy of the artist
しおらしくなったと思ったら、突然怒り出したり、拗ねたり。画面に向かって一貫して「教授!」と言い続ける女性は、ブレグワ本人。
自身の師・実験映画作家ユゼフ・ロバコフスキと彼の作品をオマージュしています。
敬意を抱きつつもその影響から逃れられない苦悩と、社会の要職を男性が占めている現実を、見る者に問いかけています。
Ⅱ-3. 新世代の感性と社会とのかかわり
民主化以降に生まれた若手世代。その多くが美術館などの既存のアート・システムに固執することなく、アクセス可能なメディアをもって自らの声を社会に届けようというポジティブな姿勢です。
今あるグローバルな経済システムに、主体的にアクションを起こすしなやかな批評性を持っています。
ヤナ・ショスタク[1993-]
《ミス・ポーランド》(2020年完成予定長編ドキュメンタリー映画)予告編より
共同監督・撮影:ヤクブ・ヤシュキェヴィチ|製作:WFDiF
隣国ベラルーシから移住し、ポーランドを拠点に活動しているヤナ・ショスタクは、移民・難民のさまざまな状況についてリサーチするなかで、「移民」や「難民」という言葉そのものに差別的なニュアンスが含まれていることに気づきます。
そこで、新しい呼び名を考案し、普及するための効果的な手段として「ミス・コンテスト」への出場でした。
フェミニスト・アートにおいて矛盾をはらむとも捉えられるこのプロジェクトを、ショスタクはあえて軽やかにハッキングし、自身の声を社会へ発信するために利用しています。
展覧会名にもある通り、しなやかな闘いと言えるのではないでしょうか。
世界的に広まった#Me Too など女性に関する問題は、いつも身近なところで起こっています。
「良き母」「良き妻」「良き娘」、そして「良き働き手」といった、伝統的な慣習が大切にされてきたポーランド。
また、東西の格差による差別や多様な性への偏見などの問題もあり、女性たちの自己実現を難しくしていました。
この目に見えない根強い問題との対峙に、女性作家たちは「アート」を選びました。
彼女たちの「しなやかな闘い」方は、自分らしく生き抜くアイディアや希望を与えてくれそうです。
もちろん、性別を越えて。
information
会場名:東京都写真美術館 地下1F展示室
展覧会名:しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像 1970年代から現在へ
会期:2019.08.14〜2019.10.14
開館時間:10:00〜18:00(木・金は20:00まで、最終入館は30分前まで)
料金:一般500円、学生400円、中高生・65歳以上250円
展覧会詳細ページ:https://obikake.com/exhibition/263-2/
◎チケットプレゼント
2019年9月9日(月)23:59まで受付!
たくさんのご応募、お待ちしています。
※図録はついておりません。
Editor | 三輪 穂乃香
【編集後記】
ポーランドの美術史についての理解も深めつつ、50年間分をたっぷり堪能できます!