展覧会レポート

美人画の時代―春信から歌麿、そして清方へ―

2019.11.11

町田市立国際版画美術館で「美人画の時代―春信から歌麿、そして清方へ―」が開催中です。

 

 

 

鈴木春信や喜多川歌麿など、数々のスター絵師が活躍した、18世紀後半の浮世絵界。「浮世絵黄金期」のこの時代の中心となったのが、「美人画」です。

 

本展では、18世紀後半に個性を発揮した実力派絵師たちと、現代まで私たちを魅了し続ける「美人画」を紹介。約240点の版画や版本、肉筆画の中から編集部が特に気になったものをピックアップしました。

 

 

多くの絵師が参考にした「春信様式の美人像」

 

鈴木春信《五常 仁》明和4年(1767)山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

 

浮世絵版画は当初、単色の墨摺(すみずり)からはじまりました。その後、徐々に多色摺の技術が発展し、明和期(1764-70)には、いよいよ錦絵(多色摺の木版画)が誕生します。

 

この時期の浮世絵界を引っ張った絵師は、鈴木春信(1725?-70)。春信の描く人物像は、華奢で軽やかな体型で、感情表現は控えめ。ですが、かすかな微笑みがどことなく幸福感をこちらに漂わせます。

 

春信様式の美人像は、多くの絵師がお手本にしました。明和7年(1770)に春信没後も、しばらくはその流行が続きます。

 

 

リアルを求めて

 

(左から)礒田湖龍斎《雛形若菜の初模様 大かなや内なをえ》安永期(1772-81)頃 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵/礒田湖龍斎《雛形若菜の初模様 丁子屋ひな鶴 やそじ やその 折つる きよつる さよつる》安永9-10年(1780-81)頃 神奈川県立歴史博物館蔵

 

春信様式が流行した明和期のあとの安永期(1772-81)には、長身で肉付きのよい人物像が主流となり、絵師たちはよりリアルな人物表現を求めていきます。

 

この時期を代表する作品は、礒田湖龍斎(いそだ こりゅうさい)の「雛形若菜の初模様(*)」シリーズです。

*「雛形若菜の初模様(ひながたわかなのはつもよう)」:安永4年(1775)頃に版元の蔦屋重三郎と西村屋与八が組み、絵師に礒田湖龍斎を起用して共同出版したもの。

 

本作は、美人画の主流であった春信様式から抜け出したことと、作品サイズが大判錦絵に拡大したことを示します。春信の作品と比べると、大きいことがわかります。

 

 

切手のデザインになった美人画

 

昭和44年(1969)に発行された「第16回万国郵便大会議」の30円切手のデザインになった、喜多川歌麿の「文読む女」。

 

喜多川歌麿《婦女人相十品 文読む女》寛政4-5年(1792-93)頃 太田記念美術館蔵

 

眉を剃りお歯黒をしていることから既婚の女性が描かれた作品です。

 

わずかに体を反らせ、真剣な眼差しで読んでいる手紙は何が書かれているのか考えてみても面白いです。手に力が入っているようにも見えるので、もしかしたら旦那さんの浮気相手からの恋文かもしれません。

 

雲母摺(きらずり)という雲母(うんも)の粉や貝殻の粉を用いて背景を塗りつぶす技法が施されています。

 

雲母摺はキラキラと輝いて見えます。会場でじっくりと見てみてください。

 

 

男女の性愛を描いた浮世絵

※春画コーナーは18歳未満入室不可

 

「春画」と呼ばれる浮世絵をご存知の方も多いのでは? 2015年に永青文庫で「春画展」が開催されてから、徐々に知名度を上げています。

鈴木春信《風流艶色真似ゑもん》(部分)明和7年(1770) メ〜テレ(名古屋テレビ放送)蔵

 

こちらの作品には、「まねへもん」という小人が、色道修行するというユニークなストーリーです。画面をよく見ると、覗き見をしている小人がいます。

 

 

清方が愛した肉筆浮世絵

 

肉筆浮世絵とは、版画技法を用いないで絵師が自筆で描いた浮世絵のことです。

 

向井大祐《MOA美術館蔵 重要文化財「婦女風俗十二ヶ月図」勝川春章筆の想定復元模写》平成29年(2017) 東京藝術大学蔵

 

勝川春章「婦女風俗十二ヶ月図」は、黄金期肉筆美人画を代表する名作。本作はもともと、肥前平松藩主松浦家に伝来し、現在はMOA美術館に収蔵されています。

 

清方は本作に倣い、明治30年頃の庶民の生活を描いた「明治風俗十二ヶ月」(東京国立近代美術館蔵)を制作しました。こちらは12月15日(日)まで、東京国立近代美術館で見られます。本展と一緒に見てみては?

 

 

おめでとう! 美術館初めての「歌麿」作品

 

喜多川歌麿《当世好物八景 はなし好》享和元-2年(1801-02)頃 町田市立国際版画美術館蔵

 

町田市では、2016年度から2018年度の3年間、ふるさと納税「町田市立国際版画美術館に「歌麿」を呼ぼう!」を実施し、美術館初の喜多川歌麿作品が収蔵されました!

 

「当世好物八景 はなし好」は、男女の楽しい会話が聞こえてくるような臨場感ある作品。木版画の柔らかい線、鮮やかな色使いも見どころです。

 

こちらの作品のみ、撮影可能です!(※フラッシュ撮影不可)

 

 

美人画を総合的に紹介する本展。公式図録は、各作品がわかりやすく説明されているためオススメ。浮世絵についてじっくり勉強してみたい方は、ぜひ。

 

 

 

information

会場名:町田市立国際版画美術館

展覧会名:美人画の時代―春信から歌麿、そして清方へ―

会期:2019.10.05〜2019.11.24

開館時間:10:00~17:00、土・日・祝は10:00~17:30(入館は閉館の30分前)

休館日:月曜日

料金:一般:900(700)円、大学・高校生と65歳以上:450(350)円

展覧会詳細ページ:https://obikake.com/exhibition/530-2/

 

OBIKAKE gifts

本展の招待券を5組10名様にプレゼント!

〆切は11月19日23:59まで!

応募フォーム

Editor  静居 絵里菜

【編集後記】浮世絵初心者に優しい展覧会。特に本展の図録がわかりやすくてオススメです!

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