展覧会レポート
2020.1.29
“幸福の国”が生んだ名画
デンマークの巨匠、ハマスホイが都美に!
東京都美術館にて「ハマスホイとデンマーク絵画」が開催中です。
ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》1898年 スウェーデン国立美術館蔵
19世紀末デンマーク絵画を代表する画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ。あまり聞いたことがない人も多いのではないでしょうか。
1911年、ローマの国際美術展でクリムトらと並んで一等賞を獲得するなど、国内外で高い評価を受けていた画家です。
本展のキーワードとなるのが、デンマークの伝統的な考え方「ヒュゲ」。
「くつろいだ、心地のよい」を意味するこの言葉は、現代のデンマーク人にとっても大切な価値観です。
ハマスホイの珠玉の作品群や、デンマーク絵画の紹介を通して、ヒュゲについて考えるのも楽しそうです。
1 日常礼賛 ― デンマーク絵画の黄金期
1800年から1864年までのデンマーク絵画は、「黄金期」と呼ばれています。
当時のヨーロッパで盛んだった、ダイナミックで感情を表現したロマン主義などではなく、身近な自然とささやかな日常に感謝する題材が多いのが特徴です。
ヨハン・トマス・ロンビュー《シェラン島、ロズスコウの小作地》1847年 デンマーク国立美術館
こちらはロンビューが、シェラン島に訪れた際のスケッチを作品にしたもの。スケッチには存在しなかった道沿いの木や岩、牛などを描くことで、変哲のない風景を印象的なものにしています。理想的な自然を描こうとした姿勢が伺えます。
2 スケーイン派と北欧の光
「スケーイン」という町にちなんでつけられた、「スケーイン派」。
その当時のデンマークは、民主化運動や他国との領土をめぐる争いが重なり、ナショナリズム*が高まりを見せていました。
そんな中画家たちは、文明に汚されていない厳しい自然環境や、漁師たちの日々の労働に魅了されます。それが古き良きデンマークの伝統や風景と重なったからです。
*民主的な国家を形成する思想。
ミケール・アンガ《ボートを漕ぎ出す漁師たち》1881年 スケーイン美術館
険しい表情で海に出ようとする、救命胴衣を着た漁師を描いた本作。人間の視覚は、ものを左から右に流れるように見る仕組みになっていますが、ここでは通常と反対の流れを生み出しています。これによって、事態の厳しさや、それに挑む漁師たちの英雄性が強められています。
スケーイン特有の光の描写にも注目して見てみてください。
3 19世紀末のデンマーク絵画 ― 国際化と室内画の隆盛
1880年代以降のコペンハーゲンでは、画家の自宅の室内をテーマとする絵画が人気になり、あたたかみのある家庭的な場面が数多く描かれました。
ヴィゴ・ヨハンスン《きよしこの夜》1891年 ヒアシュプロング・コレクション蔵
クリスマス・イブのヨハンスン家が描かれた本作。
家族や友人が手を取り、歌い踊りながらツリーの周りを回るのは、今も続くデンマークの風習です。
家庭的なヒュゲを美しく描き出したイメージとして、デンマーク人に親しまれてきました。
しかし、20世紀が近づくと、その表現がガラリと変化し、人のいない室内画が多く描かれるようになります。
4 ヴィルヘルム・ハマスホイ ― 首都の静寂の中で
「室内画の画家」として知られるハマスホイ。
首都・コペンハーゲンで生まれ育ったハマスホイは、歴史のある建物や、旧市街にある古い住宅の室内をモチーフに描きました。
ヴィルヘルム・ハマスホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》1910年 国立西洋美術館蔵
妻イーダがピアノを弾く姿を捉えた本作。
ハマスホイは同じ室内で繰り返し描いていますが、その中で扉の開閉、人物や家具の有無、また視点を微妙にずらしながら多彩な室内画を生み出しました。
ヴィルヘルム・ハマスホイ《背を向けた若い女性のいる室内》1903−04年 ラナス美術館
ハマスホイの代表作のひとつである本作。画面左に描かれたパンチボウルは、ロイヤルコペンハーゲンのもの。
よく見るとわずかにフタと本体のあいだに隙間があるのがわかるでしょうか?
これはハマスホイが実際に所有していたもので、割れた破片が修理されています。
会場でも、実物を見ることができます。
静かに、そしてひとつひとつを丁寧に作品に表現したハマスホイ。
作品の心地よい空気を是非感じてみてください。
Information
展覧会名:ハマスホイとデンマーク絵画
会場:東京都美術館
会期:2020.01.21〜03.26
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、3/13をもって閉幕しました。
詳細:https://obikake.com/exhibition/5288/
OBIKAKE gifts
本展の招待券を5組10名様にプレゼント!
〆切は2月9日23:59まで!
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Editor | 三輪 穂乃香
静かにじっくり鑑賞したあとは、グッズがかわいすぎてはしゃいじゃうと思います(笑)。