Be-dan
2020.10.12
今月のBe-danは、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市/以下、歴博)で開催中の企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」を担当された、横山百合子教授にインタビュー!
横山百合子教授
第1回では、横山先生が所属されている歴博についてや、「性差(ジェンダー)の日本史」とは、どんな展覧会なのかを、お話いただきました。
続く第2回では、本展の見どころをたっぷりとお聞きしていきます!
―展示構成について教えていただけますか?
古代から現代までの歴史を3つのテーマを全7章に分けて紹介しています。
第1テーマは「政治空間における男女」です。ここでは、政治が行われる空間にスポットを当てて、男女のあり方を時代ごとに追って探っていきます。
第2テーマは「仕事とくらしのなかのジェンダー」です。
古代の木簡や古墳から出土されたハニワなどの史料から、これまで知られてこなかった古代の男女の労働の実態や、そのイメージを読み取っていきます。
栃木県の甲塚(かぶとづか)古墳から出土された「機(はた)を織る女性坐像埴輪」の再現3D映像もあわせて展示しています。こちらもぜひご覧くださいね。
企画展示「性差の日本史」展示風景
第3のテーマは「性の売買と社会」で、歴史展示としてはこれまでに例のないテーマです。ここでは、中世から戦後までの性の売買にしぼって、その実態を明らかにしています。
企画展示「性差の日本史」展示風景
展示では、遊女・娼妓(しょうぎ)として生きた女性たちの日記や、手紙なども紹介しながら、それぞれの社会の特徴を、性の売買の歴史から見つめ直していきます。
―ボリューム感のある展示ですね! 本展のメインビジュアルに使用されている肖像画は、遊女なのでしょうか?
はい。こちらは、稲本屋という遊廓のトップ遊女である4代目小稲(こいな)の肖像画です。
小稲の髪型は、兵庫下髪(ひょうごさげ)と呼ばれ、彼女の生きた明治時代にはなくなってしまった遊女の髪型でした。
本作は、“古い髪型を、当時の最新技術であった油彩画を使って残す”という稲本屋の広報にも役立つ企画に、4代目小稲が応じて描かれました。
近代洋画の創始者である高橋由一(たかはし ゆいち)が描いたのですが・・・この作品を観た彼女は「妾はこんな顔ではありんせん」と、泣いて怒ったと伝えられています。
企画展示「性差の日本史」展示室より (右手前)重要文化財 高橋由一画「美人(花魁)」油彩 1872(明治5)年 東京藝術大学蔵
近年では、各地で開催されている春画展などで、遊女への関心が高まっています。しかし、それらの多くはお客さんの目線を意識して表現した遊廓です。
実際に働く遊女や経営者、遊廓を公認することで利益をあげている勢力など、多様な視点から見てみると、私たちが知る遊女とはまったく違う姿が見えてきます。本展では、そうした遊女本来の姿を知ってほしいと考えています。
―確かに春画や浮世絵などの絵画作品では、遊女はお客の気持をそそるように描かれていますね。
実際、遊女の労働環境は現代でいうブラック企業そのものでした。日常的に暴力を振るわれるのは当たり前で、彼女たちは人ではなく、モノ扱いされていました。
―遊女の日記や手紙をみると彼女たちは、身も心もすり減らして働いていていたこともわかるのですね。
「吉原細見(よしわらさいけん)」という遊廓のガイドブックのようなものが、資料として残っています。これは、遊女の名前が年2回、店ごとにランキング形式で作られ、販売されていました。今でいうアイドルの選挙みたいなところがあったのでしょうね。
「吉原細見」を通して、遊女同士の競争意識を高めていたということが分かっています。
企画展示「性差の日本史」展示室より(左)「吉原細見」1849(嘉永2)年 個人蔵
(右)「梅本記 参」1849(嘉永2)年 東北大学附属図書館蔵 狩野文庫
そのような環境に耐えかねて、雇い主の家に火をつけて抗議する遊女らもいました。放火までのいきさつを記した「おぼへ長」という日記の写しや、遊女自筆の日記も残っていています。
展示室では、「おぼへ長」に書かれた内容を、「ノータッチパネル」で読むことができます。
赤外線センサーに反応するボタンで、手をかざすだけでモニター上の資料をめくれる仕組みになっています。
ノータッチパネルで読む「梅本記 参」
―「ジェンダー」をテーマとして取り上げる試みは、歴博では初めてということですが、本展を企画した理由を教えていただけますか?
歴博では、2004年に総合展示リニューアル基本企画というものを策定し、生活史、環境史、国際交流の3つのテーマとともに、多様性と現代的視点という2つの視点を定め、研究を進めています。
多様性とは、日本列島における少数民族、身分や階層、そして本展のテーマとなっている「性差」などを含むマイノリティの視点から歴史をとらえることです。
現代的視点とは、わたしたちが現在直面している課題に正面から向き合い、歴史的視点からその課題に向き合っていくことを指しています。
このリニューアル基本企画をもとに研究に研究を重ねて、2019年3月に、第1展示室「先史・古代」をリニューアルオープンしました(第1回より)。
第1展示室 テーマⅠ「最終氷期に生きた人々」展示風景
現代の日本社会が抱えるさまざまな問題のなかでも、「ジェンダーによる差別や葛藤」が、男女問わず大きな問題になっていると考えています。
歴博では、このような問題意識に立ち、2008年国際研究集会「歴史展示のなかのジェンダー」と、ワークショップ「戦争展示のなかのジェンダー」の開催を皮切りに、2つの国際研究集会を開催し、性差にスポットを当てた多様な研究活動を進めてきました。
本企画展示は、これらの研究成果を広く発信し、ジェンダー視点から歴史をみることの重要性を、皆さんに知ってもらうための企画展示になっています。
古代から現代までの「ジェンダー」を取り上げているため、欲張りな展示かもしれません。しかし、まずはこんなに意外で、ユニークな歴史を皆さんに存分に楽しんでいただければと願っています。
また本展を通じて、ジェンダーにとらわれず、誰もが自分らしく生きていける社会を築くヒントになればと、思っています。
「ジェンダー」の歴史を3つのテーマに分けて紹介する本展。これまでの研究成果がギュっと詰め込まれていて、ボリューム満点の展示でした!
第3回では、横山先生が専門とされている、日本近世のジェンダー史の研究内容について、詳しくお聞きします。
次回のBe-danもお楽しみに!
(第3回へ続く)
information
展覧会名:企画展示 性差(ジェンダー)の日本史
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
会期:2020.10.06〜12.06
開館時間:9:30~16:30(入館は閉館の30分前まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。詳しくは公式サイトをご覧ください。
企画展示会場内の混雑防止のため、会期中の土・
事前予約をされた方は、ご希望の時間にご入室いただけますが、
詳細はコチラをご覧ください。
休館日:月曜日(休日にあたる場合は開館し、翌日休館)
料金:一般 1,000円、大学生 500円、高校生以下無料
展覧会詳細ページ:https://obikake.com/exhibition/12990/
公式サイト:https://www.rekihaku.ac.jp
OBIKAKE gifts
本展の招待券を5組10名様にプレゼント!
〆切は10月28日23:59まで!
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ヤマトグループ歴史館 クロネコヤマトミュージアム館長・白鳥美紀さん
彫刻家・瀬戸優さん
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Editor | 静居 絵里菜
OBIKAKE編集部所属。