展覧会レポート
2020.10.15
現代の東京のルーツは、江戸にあり?
江戸時代の「土木」を、浮世絵でみてみよう!
太田記念美術館で、「江戸の土木」が開催中です。
江戸の土木 展示風景より
(左)歌川広重 東都名所 両国橋夕涼全図 天保(1830―44)後期頃 太田記念美術館蔵/(右)菊川英山 江戸両国すゞみの図 文化8年(1811)8月 太田記念美術館蔵
徳川家康が幕府を開いてから、100年ほどで人口100万人を超える大都市となった江戸。その土台となったのが、インフラなどの整備の高度な土木工事でした。
本展は、東京のルーツとなった江戸の土木工事について、歌川広重や葛飾北斎など、浮世絵師が描いた作品を手がかりとして読み解いていく、ユニークな展覧会です!
ここでは、おびかけ編集部イチオシの展示作品を、ご紹介していきます♪
300年間、流失しなかった橋がついに・・・
千住大橋(せんじゅおおはし)は、徳川家康が江戸で幕府を開いてから4年後にあたる、文禄3年(1594)に、隅田川に最初に架かった橋です。
橋の長さは66間(約120メートル)。橋を架けたのは当時、土木の名手として知られていた、伊奈忠次(いなただつぐ)でした。
江戸の土木 展示風景より (手前)二代歌川国明 千住大橋吾妻橋 洪水落橋図 明治18年(1885) 個人蔵
約300年間と長い間、流されることのなかった名橋でしたが、明治18年(1885)7月、台風による洪水で、ついに崩落!
千住大橋の残骸が、下流にあった吾妻橋にぶつかり、同橋も損壊する二次災害にまで発展しました。
本作は、岸から人びとが縄を使って懸命に残骸を引き留めている様子を描いたもの。中央の大きな残骸は、吾妻橋のもので、右端の小さな残骸が千住大橋です。
江戸時代のフォトスポット?
藤の名所として知られる亀戸天神は、寛文3年(1663)に、太宰府天満宮(福岡県)を分社したのが始まりといわれています。
本作は、境内にある男橋、女橋という2つの太鼓橋(たいこばし)のうち、男橋を描いたものとされています。
江戸の土木 展示風景より 葛飾北斎 諸国名橋奇覧 かめゐど天神たいこばし 天保4―5年(1833―34)頃 太田記念美術館蔵
橋の急なアーチは、
浮世絵と一緒に、明治時代に撮影された写真パネルもあり、わかりやすい展示になっています◎
浮世絵でみる、江戸の震災と復興にも注目
地震や火事などの被害が多かった江戸の町。そのたびに人びとは、町の復興を目指し、市中の至るところで建設工事を行っていました。
本展では、幕末の江戸に、大きな被害を与えた「安政の大地震」の様子を描いた作品も、展示されています。
江戸の土木 展示風景より 作者不明 浅草寺大塔解釈 安政2年(1855)頃 太田記念美術館蔵
浅草・浅草寺の五重塔が、震災の被害にあった様子を紹介する作品です。
倒壊を免れた五重塔ですが、頂上の九輪(くりん)が大きく曲がっているのがわかります。
江戸の土木 展示風景より 歌川広重 名所江戸百景 浅草金龍山 安政3年(1856)7月 太田記念美術館蔵
こちらは、広重が地震の翌年に描いたものです。ちょうちんの奥には、先ほどの五重塔が小さく描かれています。よーくみると九輪が、まっすぐ元通りになっているのがわかります。
本作は夏(7月)に描かれたものですが・・・なぜか雪景色で描かれています。
ちょうちんや建物の赤と雪の白で、紅白を表し、浅草寺の修復事業と、大震災から復興を祝う作品ではないか、といわれています。
これらの工事は、すべて手作業!
本展のメインビジュアルにも使用されている、葛飾北斎「冨嶽三十六景 遠江山中」。
木挽(こびき)と呼ばれる職人が、大鋸(おおが)という、2人で引く大きなノコギリを使って、巨大な木材を切っているところが描かれています。
江戸の土木 展示風景より (左)葛飾北斎 冨嶽三十六景 遠江山中 天保元―5年(1830―34)頃 太田記念美術館蔵
現代のように建築機械は存在しなかった江戸時代。
大規模な土木工事の裏側には、数え切れないほどの職人たちの働きがあったことも、伝えています。
江戸時代の高度な土木工事について学べる本展。
Googleマップなどの地図アプリで、今の東京と浮世絵を合わせてみると、新しい発見があるかもしれません。
information
展覧会名:江戸の土木
館名:太田記念美術館
会期:2020.10.10〜11.08
開館時間:10:30〜17:30(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日
料金:一般 800円、大高生 600円、中学生以下無料
展覧会詳細ページ:https://obikake.com/exhibition/10450/
公式サイト:http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/
※感染症対策が実施されています。来館前に必ず美術館公式サイトをご確認ください。
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Editor | 静居 絵里菜
【編集後記】亀戸天神の男橋が現代にあったら、ぜひ渡ってみたいと思いました! 渡る、というよりは、登るに近いのかもですが(笑)