展覧会レポート
2020.12.23
世界のアーティスト33人の作品を展示
国立美術館のコレクションでみる「眠り」のかたち
東京国立近代美術館にて「眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで」が開催中です。
展示風景
私たちが生きていくうえで欠かせない「眠り」。この行為は、これまで数々の芸術家たちの作品のモチーフとされてきました。
本展では、「眠り」がどのように表現されてきたか、そしてそれが私たちに問いかけるものは何かを、国立美術館所蔵の絵画、版画、素描、写真、立体、映像など、幅広いジャンルの作品を通して探ります。
「目を閉じて」
序章「目を閉じて」では、目をつぶった人間の姿が登場します。
眠るためには、まず目をつぶらなければならず、目を閉じているあいだは、だれかを見ることも自分自身を見ることもできません。
対して、目を閉じる人を前にした人は、相手を「一方的に見る」という立ち位置に身を置くことになります。
こういった関係性から、眠る=目を閉じることは無防備で頼りない行為のように思えるかもしれません。
展示風景より左:海老原喜之助《姉妹眠る》1927年 油彩・キャンバス 東京国立近代美術館蔵
右:ペーテル・パウル・ルーペンス《眠る二人の子供》1612-13年頃 油彩・板 国立西洋美術館蔵
《眠る二人の子供》は、描かれた場所を考えてみると、寝床をすぐ見下ろせるほど近くにいるであろうことがわかります。
一方的なまなざしでありながらも、子供たちをいとおしむような優しい視線が、作品から伝わってくるようです。
夢と現実のはざま
人は、夢とうつつ(現実)を行き来しながら生きています。そして時には、夢と現実が、はっきり判別できなくなる状態になることがあります。
夢はおもに、身体は休まっているのに脳が活動している、レム睡眠の状態のときに見るものとされています。
展示風景より、饒加恩《レム睡眠》2011年 国立国際美術館蔵
饒加恩(ジャオ・チアエン)の《レム睡眠》は、人々が見る夢に着目した映像作品です。台湾に住む外国人労働者たちが語る夢の光景には、過去の記憶や願望、外国に住む不安などが混ざり合っています。
夢が、非現実と現実をつなぎ、彼らを取り巻く社会の厳しい現実を浮かび上がらせるのです。
目覚めを待つ
眠りのあとには、必ず目覚めが訪れます。
展示風景より、ダヤニータ・シン《ファイル・ルーム》2011-13年 京都国立近代美術館蔵
《ファイル・ルーム》は、高く積まれた書類や書籍などの記録資料のようすが写真に収められた作品です。
まるで地層のようにも見える書類の山。今後発掘されるものもあるかもしれないし、忘れ去られるものもあるかもしれません。こういった光景が、70点、淡々と撮影されています。
このようなアーカイブは「現状では眠っている」と言えますが、将来的な目覚めを期待させます。
もしくは、このように作品に登場しているから、ある意味「目覚めた」ととらえることができるかもしれません。
もう一度、目を閉じて
芸術のなかの「眠り」、目を閉じる表現は、実に大きな意味の広がりを持っています。
展示風景より、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《貧しき漁夫》1887-92年頃 油彩・キャンバス 国立西洋美術館蔵
《貧しき漁夫》は、舟に横たわって眠りについている子どもの横で、静かに目を閉じている漁夫を描いた作品です。
目を閉じることは、他者の視線に身を任せることを意味する反面、自身の今までとこれからを静かに考える機会を与えてくれます。
今後、目を閉じる人が描かれた作品を前にした私たちにも、これまでの日常を振り返り、これからをいかに過ごすかを考えるためのヒントがもたらされるでしょう。
展示デザインにも注目です
展示室は、設計デザインをトラフ建築設計事務所が、グラフィックデザインを平野篤史氏(AFFORDANCE)が手がけています。
カーテンや布を思わせる展示空間や、不安定な感じの文字デザインなど、起きていながら「眠り」の世界へいざなうような、さまざまな仕掛けに着目してみてください。
展示風景
また、本展の重要なテーマに「持続可能性」(sustainability)もあります。
「眠り」は私たちに欠かせないものであり、繰り返されるもの。それとリンクする形で、少しでも環境の保全に配慮し、前会期の「ピーター・ドイグ展」の壁面の多くを再利用しています。
ルーベンス、ルドンから、河原温、内藤礼に塩田千春まで。「眠り」という共通のテーマを通して、美術史上の名作から現代アートに至るまでをユニークな組み合わせで紹介する本展。
国立美術館コレクションでみる「眠り」のかたち、必見です。
OBIKAKE gifts
本展の招待券を5組10名様にプレゼント!
〆切は2021年1月10日23:59まで!
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眠り展:アートと生きること
ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで
2020.11.25~2021.02.23
開催終了
東京国立近代美術館
Editor | 三輪 穂乃香
【編集後記】
ひろい展示室と、柔らかい印象の空間デザインが絶妙にマッチ♪