展覧会レポート
2021.2.2
古典を読み解き、古来の日本の色を復元し続けた
吉岡幸雄の没後初回顧展 京都にて開催中
細見美術館(京都・左京区)にて、特別展「日本の色−吉岡幸雄の仕事と蒐集−」が開催中です。
源氏物語 澪標
吉岡幸雄(よしおかさちお、1946-2019)は、日本を代表する染織史家です。
日本の染織品は、およそ130年前までは草木などから得た天然染料で染めていましたが、しだいに化学染料が使われるのが主流になっていきました。そんな中、吉岡は、「植物で染めた色が100年たっても美しい」と、古来の技法を復元することに挑戦し続けました。
本展は、吉岡の仕事やコレクションを没後初めて紹介するものです。
全国各地で自然由来の染物の技術や素材を学ぶ
吉岡は、江戸時代から続く染色工房に生まれ、5代目当主となりましたが、それ以前に美術工芸にまつわる出版社「紫紅社」を設立しています。
紫紅社で国内外の染織品を取材するなかで、昔の染織品の素晴らしさに気づき、古来の染色法を学んでいくようになります。そうしてさまざまな技術や素材に触れているうちに「植物染料で染められたものは、月日がたっても美しい」と気づいたそうです。
この時から、もし家業を継いだら、「手間暇かけても、自然のもので染める」と決めたそうです。
1988年に当主になってからは、全国各地を駆け巡り、その地に伝わる染物の技術や素材を学び、保存と復元に力をつくしました。
展示風景
今や、私たちの身の回りにある物のほとんどに化学染料が使われています。しかしその歴史はまだ浅く、明治の初めに日本に入ってくるまでは、植物の花の実や根で染めていました。
化学染料が主流となった今では、染料となる植物を手に入れることは難しく、農家を説得して栽培を依頼したそうです。
吉岡が研究し続けた日本古来の染物技法を使うことは、日本の美意識や、かつて自然とともに生きていた人たちのライフスタイルに立ち返るとも言えます。
源氏物語は、偉大な教科書?
平安時代の染織品の多くは、火災などで失われていますが、和歌や物語、随筆などは現代でも読み継がれています。吉岡は、こうした古典を読み解いていくことで、皇族や貴族の磨き上げた感性や色彩感覚を研究しました。
源氏物語 澪標
日本文学の最高峰「源氏物語」は、吉岡にとって「色に関する勉強と手作業の偉大なる教科書」でした。
源氏物語が成立してから千年に当たる2008年には、当時の衣裳の色を15年もかけて再現しました。これは、源氏物語のエピソードのひとつである「澪標(みおつくし)*」をイメージした衣裳の色を再現したもので、須磨(現在の兵庫県)から帰京し、住吉(現在の大阪府)を参拝する源氏一行の華やかな場面で、吉岡は1位から9位までの官位を9色で表現しています。
*澪標…源氏物語の巻名のひとつ。
貴重な古代インドの更紗もコレクション
吉岡は、奈良市の東大寺の正倉院に収められている染織品や、古代インドの更紗などもコレクションしています。
このような国内外の染織品は、吉岡が鮮やかな色を表現するための「最上の手本」となりました。
*インドの更紗・・・もめん地や絹地に花、鳥などの模様を描いたもの。
古代印度更紗(赤星家旧蔵)
また、吉岡は自分に迷いが生じると、これらの染織品を見て「変わらない美しさがある」と、目の奥に刻み込んだそうです。そうして、「先人に負けないものづくりをしなければ」と自らを奮い立たせていました。
かつて見にまとっていた人の美意識や時代に思いをはせて、先人たちの知恵から学び、仕事に打ち込んだ様子がうかがえます。
伝統的な行事に携わる
吉岡は、多くの伝統行事にも携わっていました。奈良市の東大寺二月堂で、春を告げる行事として知られる「お水取り」や、薬師寺の「修二会」で用いる造花の染和紙などを染めています。また、京都府八幡市の石清水八幡宮で開催される「石清水祭」のために、染和紙を使って作られた花や造形物も奉納されています。
展示風景
展示では、吉岡の偉大な仕事や、貴重なコレクションなどが約80点並びます。
吉岡の本質を見極める目と、研究し続ける姿勢から成し遂げられた仕事を、一堂に観られる貴重な機会です。
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本展の招待券を4名様にプレゼント!
〆切は2021年2月28日23:59まで!
応募フォーム(応募は終了しました)
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2021.01.05~2021.05.09
開催終了
細見美術館
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