展覧会レポート
2021.8.13
体験を共有するアート
人間は協働できる生き物だ!
東京オペラシティアートギャラリーで「加藤翼 縄張りと島」が開催中です。
展示風景
加藤翼は、複数の参加者による協働作業が生み出す行為を、映像・写真などの作品として発表しつづけている現代美術家です。
「協働」とは、同じ目的のために、対等の立場で協力して共に働くことを意味します。
自然災害、都市開発、環境破壊の影響によってコミュニティが解体の危険にさらされている地域を数多くリサーチし、協働プロジェクトをグローバルに展開する加藤の作品は、国内外で高い評価と注目を集めています。
美術館初個展となる本展では、代表作から話題作に至る映像作品28点・写真・模型などで構成したインスタレーションを展示。加藤のこれまでの歩みが通覧できます。
本記事では、本展でおびかけ編集部が注目した4作品をご紹介します♪
注目作品①
Superstring Secrets
《Superstring Secrets:Hong Kong》2020 映像(3面7分5秒、翻訳:楊天師)
Superstring Secretsは、2020年に香港でスタートした「秘密」を紙に書いて投函してもらうプロジェクトです。
「心理的な距離」に焦点を当てた本作は、「秘密」を集める時代や場所を変えながら、内容をアップデートしていく予定だといいます。
投函された各自の「秘密」は、シュレッダーで裁断され・・・、
縄状に束ねられた構造体(*)になっていきます。
*構造体:要素が違う複数のものが合わさってできたものを、1つの集合体として扱う構造のこと。
本展では、香港で現地のアーティストや、哲学者、学生たちの協力のもと制作された初回作品と、今年の5月にパンデミック下の東京において、国立競技場の周辺で制作された2作品を展示。
国や時代によって集まる秘密の内容や量にも着目です!
《Superstring Secrets:Tokyo》2020 映像(4面10分23秒、撮影:青石太郎、翻訳:ライアン・ホームバーグ)
コロナ禍に身を置く今は、心理的な距離だけでなく、物理的な距離も考慮しながら協働していく方法を模索しなければなりません。
構造体で隔たれている人々の距離は、ソーシャルディスタンスのようにも見えます。
時代の変化とともに作品の見え方や、解釈が変わっていくのも、アートの持つ魅力です。
現在も進行中のプロジェクト・Superstring Secrets。今後の展開に要注目です!
注目作品②
Underground Orchestra
《Underground Orchestra》2017 映像(5分38秒)
Underground Orchestraは、アメリカ・ノースダコタ州にあるスタンディングロック居留地(*)を舞台に撮影した作品です。
*居留地(きょりゅうち):国の中で、外国人が居住・営業することが許されている特別地域。
この居留地はかつては川が流れる穏やかな地域でしたが、2016年に石油パイプライン建設をめぐった抗議デモの拠点となり、紛争地域と化しました。
本作では、地上で争う人間たちに、紛争や建設によってを巣を奪われたプレリードッグたちの移動の音楽が届くよう、巣穴の出口に鈴を仕掛けて、彼らの動きを音に変換しています。
パイプライン建設賛成・反対の立場を超えて、人間の傲慢さやその犠牲になる弱者へのまなざし、自然と共生することの重要性を風刺とともに提示した作品です。
注目作品③
The Lighthouses-11.3 PROJECT
《The Lighthouses-11.3 PROJECT》2017 映像(5分38秒)
The Lighthouses-11.3 PROJECTは、東日本大震災後の福島県いわき市で行われました。
加藤は、いわき市の避難所にボランティアとして参加する一方、津波で家を失った家主たちから大量の木材の提供を受け、灯台をモチーフとした構造体を制作。
3.11を逆にした11月3日の文化の日、加藤の呼びかけで集まった500人の人々で灯台を模した構造体を引っ張り起こしました。
現在では、このプロジェクトの構想がきっかけとなり、加藤のプロジェクトから震災復興を目指す地区の祭事へと発展。
自然災害によって崩れかけたコミュニティに残った人々が一体となり、力を合わせた協働体験を共有しました。
注目作品④
Haul the Whale First
《Haul the Whale First》2008 映像(2分42秒、撮影:平野由香里)
Haul the Whale Firstは、インドネシアのラマレラ村で撮影した作品です。
ラマレラ村では、現在でも木造船と銛(もり)による伝統捕鯨が行われており、探検家・関野吉晴のプロジェクトに同行して村を訪れた加藤は、この捕鯨の現場に立ち会いました。
普段は別々のグループに属する村の人々が、巨大なクジラを目の前にして協働で縄を引く行為は、人類の原始的な行動ともいえます。
加藤は自身の制作テーマに掲げる「協働」が自発的に行われている伝統捕鯨に、自分の作品と通ずる感覚を覚え、記録しました。
全体の作品を鑑賞する上で、テーマがシンプルに露出した本作は鑑賞の糸口になるのではないでしょうか?
このほか、会場に点在する大きな構造体と、映像・写真からなるインスタレーションの数々で構成される本展は、人々が自発的に参画し、一体となって何かを実践することの意義を提示します。
《言葉が通じない》2014 映像(5分14秒)/ラムダプリント(撮影:坂倉圭一)
パンデミックという状況下において、国家や国民が両極端に分かれていく現象が巻き起こっている今、異なる意見や立場をどのように捉えて前に進むべきなのでしょうか?
本展は、私たち一人ひとりが、協働作業や連帯の可能性について改めて着目し、このような問題解決をするための手がかりになりそうです♪
OBIKAKE gifts
本展の招待券を5組10名様にプレゼント!
〆切は2021年8月23日23:59まで!
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加藤翼 縄張りと島
2021.07.17~2021.09.20
開催終了
東京オペラシティ アートギャラリー
Editor|松栄 美海
【編集後記】
作品はどれもメッセージ性が強く、取材の1時間では足りませんでした!
今回感じたことを少しでも私生活に落とし込んでいきたいと思います。