Be-dan
2019.6.17
【第2回:斬新な表現力!ボリス・エイフマンの目指す心理表現の面白さ】
インタビュー第1回では、21年ぶりの来日公演となるエイフマン・バレエ「ロダン~魂を捧げた幻想」のあらすじや見どころについてお聞きしました。第2回では、エイフマン・バレエが目指しているものや、本作でボリス・エイフマンが本当に描きたかったテーマについて掘り下げてお聞きしていきます!
―エイフマンさんは、なぜ今回ロダンをテーマとしたバレエを作ろうと考えたのでしょうか?
エイフマンさんがご自身の創作意欲を掻き立てられるものの一つが、「芸術家」という存在なんです。その中でも、ロダンは特にエイフマンさんにとって特別身近な存在だったそうです。なぜなら、彼もロダンも、人間の身体に向き合い続けて、体の可能性を追求し続けた人だったからです。ロダンの場合は彫刻という静止状態の中で人間が心の内に秘めた感情などを石や粘土の中に込めて表現しようとしましたが、エイフマンさんの場合は全く同じものを「動き」で伝えようとしているんですね。方法は違えど、彫刻もバレエも同じ芸術であって、出発点も身体にあるという点で共通点があり、強いシンパシーを感じていたのだそうです。
―ズバリ、「ロダン~魂を捧げた幻想」でエイフマンさんが描きたかったことって何なのでしょうか?
エイフマンさんは、同じ芸術家として、ロダンが何を犠牲にして次から次へと傑作を生み出すことができたのか興味があったそうです。本作では、その点が徹底的に掘り下げられているんです。劇中で登場するロダンとクローデルという2人の天才彫刻家の境遇は非常に対照的でした。「接吻」「カレーの市民」といった傑作で名声を得て、偉大な芸術家として称賛されたロダンに対して、彼と同じくらい才能があったにもかかわらず、世間から正当な評価を得られなかったクローデル。師弟関係であり、恋人同士でもあった2人ですが、彼らの関係性は不平等なものでした。
2人の関係性はロダンが、クローデルの愛情、身体、才能など全てを、エイフマンさんの言葉を借りれば『ヴァンパイアのように』吸い取ることで成り立っていて、ロダンの偉大な芸術作品はクローデルという一人の人間を犠牲にすることで生み出されたのですね。
単にロダンの活躍だけを描くのではなく、ロダンの活躍の裏にはクローデルという悲劇的な天才彫刻家の存在があったということをきちんと描きたかったそうなんです。エイフマンさんは、2人の出会いから別れに至る生々しい過程を心理劇として表現しているんです。
―身体表現の凄さだけでなく、主人公の男女が織りなす濃厚な心理描写も大事な見どころだということなんですね?
そうなんです。だから、毎回バレエの中身は熱気に満ちた濃いものになるので観ている方としては大満足なんですが、逆に演じているバレエダンサーたちは大変です(笑)。舞台で一夜踊り終えると、エイフマン・バレエの場合は肉体的な疲労よりも精神的な疲労のほうが多いってみんな口を揃えて言いますね。例えば、ロダン役を当たり役としているオレグ・ガブィシェフというダンサーは『「ロダン」は全体に感情が満ち溢れている作品。湧水のように感情が吹きだしている作品なので、肉体的な疲労よりも、むしろ精神的な疲労をより強く感じる』と言っていましたし、カミーユ・クローデル役を踊っているリュボーフィ・アンドレーエワは『感情を表現した後は、心の内側がすっかり空っぽ。毎公演後、肉体的に凄く疲れるのは当たり前ですが、内側が空っぽになるように感じるのは特に「ロダン」』と言っていました。まさに彼らは舞台の上で役の人生を“生きている”んです。ぜひ、ロダンとクローデルの恋の激しさと切なさを細密に描ききった心理描写に注目して観てくださいね。
☆エイフマン・バレエのダンサーたち☆
オレグ・ガブィシェフ
リュボーフィ・アンドレーエワ
エイフマンとリハーサル中の2人
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21年ぶり待望の来日!世界に衝撃をあたえ続ける
エイフマン・バレエ 日本公演 2019
7.18 [木] 19:00 「ロダン ~魂を捧げた幻想」
7.19 [金] 19:00 「ロダン ~魂を捧げた幻想」
7.20 [土] 17:00 「アンナ・カレーニナ」
7.21 [日] 14:00 「アンナ・カレーニナ」
会場:東京文化会館
(問)ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212
【全国公演】
7.13 [土] 15:00 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 「アンナ・カレーニナ」
(問)びわ湖ホールチケットセンター 077-523-7136
7.15 [月・祝] 15:00 グランシップ(静岡)中ホール・大地 「ロダン ~魂を捧げた幻想」
(問)(公財)静岡県文化財団 054-289-9000
⇒ エイフマン・バレエ 日本公演2019 特設サイトはこちらから
(第3回に続く)
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Writer | 齋藤 久嗣
脱サラして満3年が経過。現在は主夫業とアート系のブロガー&ライターとして活動中。
首都圏を中心にほぼ毎日どこかの展覧会に出没中。日本美術が特に好みです!(Twitter:@karub_imalive)
Editor | 松栄 美海
OBIKAKE編集部編集長。学生時代は美大で彫刻を学ぶ。IT企業を経て昨年9月よりWEB担当として入社。
OBIKAKEの立ち上げを担当。とにかくこの仕事が好き。編集や撮影について勉強中。