Be-dan
2019.12.2
今月の「Be-dan」は、本連載始まって以来の大学教授が登場!
インタビューに応じて下さったのは、立教大学文学部教授の加藤磨珠枝(かとう ますえ)先生。第1回では、加藤先生が専攻する「中世キリスト教美術」の魅力や楽しみ方をお聞きしました!
―まずは、加藤先生が現在研究されている「中世キリスト教美術」について簡単に教えていただけますか?
西洋美術において、中世という時代は非常に定義が広いんです。「古代」と「ルネサンス」に挟まれた、約1000年間の間に西洋各地で生み出された美術全般を、「中世美術」といいます。この時代には、古いキリスト教会のモザイク装飾やゴシック建築、祭壇画から聖書の写本まで、非常にバラエティに富んだ作品が残っているんです。
―地域や民族によって様々な美術表現が混在していた時代なんですね!
そうです。ローマ帝国によって広まったキリスト教文化が共通の土台にあって、そこから平面的・抽象的な独自の美意識が育まれていったことで、各地で驚くほど多彩な作品が残されました。
たとえばこれは、立教大学が所蔵している『エチミアジン福音書』という、6〜10世紀に制作されたアルメニアの聖書写本*のレプリカです。ファクシミリ本といって、表紙の象牙彫りの装丁板や中の羊皮紙は、傷や汚れなども含めて本物そっくりに再現されています。非常に重いので、注意して持たないと腰がやられます(笑)。
*写本とは? 手書きで複写された書物や文書のこと。
―もの凄い重厚感ですね!
学校の授業でも中を開いて見せることがあります。写真で見るよりも圧倒的に書物の存在感を感じられるので、学生さんも喜びますよ。
特に聖書という存在は、長い歴史の中で戦火や略奪などでどんどん失われていきました。なので、現在残っているものは非常にレアで貴重なんです。博物館や美術館で展示される機会もとても少ないです。
―中世キリスト教美術の「魅力」とは何ですか?
やはり“多様性”と“斬新さ”ですね。中世は、イタリアや南仏、スペインといった旧ローマ市民たちの地域だけでなく、北方に住んでいたゲルマン系など、それぞれ全く違う文化を持った人たちが、「キリスト教」という共通の心の柱をよりどころにして緩やかにつながっていました。でも彼らは、独自の価値観・美意識を通してキリスト教を解釈していたので、そこから生み出される表現は非常に豊かで、きわめて独創的なんです。
一つの解釈や、基盤にとらわれていない自由さは、現代アートにも通じるものがあるかもしれませんね。
印象派やルネサンスの時代と比べると、中世美術はやや複雑に感じられるかも知れません。加藤先生が中世キリスト教美術にハマったきっかけは何だったのでしょうか?
次回は、先生の学生時代にフォーカスしてお聞きします。お楽しみに!
(第2回につづく)
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Writer | 齋藤 久嗣
脱サラして満3年が経過。現在は主夫業とアート系のブロガー&ライターとして活動中。
首都圏を中心にほぼ毎日どこかの展覧会に出没中。日本美術が特に好みです!(Twitter:@karub_imalive)
Editor | 三輪 穂乃香
OBIKAKE編集部所属。