Be-dan
2021.1.4
今月のBe-danは、日本女子大学でフランスの服飾史や服飾文化の研究をしている内村理奈准教授にインタビュー!
第1回では、内村先生の普段のご研究や、服飾史を研究しようと思ったキッカケなどをお聞きします。
内村理奈先生 ※撮影時のみ、マスクを外していただきました。
―まず、普段のご研究である「フランス服飾史」についてお聞かせください。
主に17~19世紀のフランスの服飾を研究しています。
服飾史というと、服の形の変化を追っていく「服の歴史」のようなもの、と考える人もいるかもしれません。でも“服飾”は、当時の社会や人々の考えといった「時代」を映すものでもあります。
着ている人の当時の気持ちや、状況など……。「どうしてその服を着ていたのだろう?」と考えながら、文献図像、実物などいろいろな史料を調べています。
たとえば、2019年に出版した『マリー・アントワネットの衣裳部屋』(平凡社刊)に載せている遺産目録。これは、彼女の衣裳部屋にどんなものがあったのかという記録です。
こうした詳細なデータも大事ですし、関係者の回想録、当時の戯曲や小説など、フィクション作品も参考にしています。
内村先生の著書『マリー・アントワネットの衣裳部屋』
―服飾史を研究しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
小さいころからお裁縫や絵を描くことが好きで、「デザイナーになれたらいいな」と思っていました。
そして被服学科に進学したのですが、入学してから服飾史という学問を知り、知れば知るほど面白くなっていきました。
日本の服飾も西洋の服飾も大好きなので、どちらに進もうか迷いましたが、より自分にとって知らないことばかりだった「西洋」を選びました。
―服がお好きだったのが出発点だったんですね。その中でも、フランスの服飾のどんなところに惹かれましたか?
最初は、17世紀フランスの‟ギャラントリー”*という流行現象でした。今とあまりに違う世界で、そこが面白くて。
当時の男性のファッションが特徴的で、リボン装飾やレースがふんだんにあしらわれた服飾品を身に着けていました。今とは全然違う価値観ですよね。
*17世紀のパリの上流貴族の社交界から生まれた流行現象。
とくに青年貴族たちの恋愛や恋人、
―男性もそんなに華やかな服を着てたんですね! 「今とは全然違う」文化は、他にもありますか?
着替えの回数ですね。現代に比べるとずっと多いです。
現代人は、よそ行きもありますが、ふだんは外出着と部屋着と寝間着、くらいなのではないでしょうか。当時は細かいTPOに合わせて、一日に何回も着替えていました。
それに、身分の高い女性は着替えの時間にお客様を招き入れたり、とか。
自分より身分の低い者に、着替えているところや入浴中を見られることに、抵抗がなかったようです。たとえそれが、女性でも男性でも、です。
―現代だと考えられないですね。反対に、今も昔も変わらないな、と思う部分はありますか?
可愛いものに対する感覚は、一緒だなと思います。あの時代の人が可愛いと思っていた美しいレースや色とりどりのリボンなどは、今見てもやっぱりとても素敵で、可愛いですよね。
だからこそ、マリー・アントワネットが生きた18世紀も、研究するうえで避けて通れない時代でした。華やかで美しくて、ヨーロッパの服飾といって思い浮かべる人が多いのもこの時代なのではないでしょうか。
―確かに、ドレスと聞くと、豪華で可愛くて、美しいものというイメージがあります。
実は19世紀のフランスも、時代が進むにつれて、17~18世紀への憧れを持つようになりました。フランス革命で人々の考えが一気に変わって、それまでの貴族文化、美しいとされていたものも一度はすべて否定されたのに、時が経つとまた価値観が変化していくところが興味深いです。
しかも、19世紀になると今の時代に通ずるものもたくさん生まれます。
そうやって、変わりつつも繋がりがあるところが魅力的で、この3世紀の流れを見ていきたいと思い、研究を続けています。
華やかでときめくものがたくさん登場する、フランスの服飾世界。
第2回では、フランスの服飾文化の魅力や、おすすめの美術館などをお聞きしていきます。熱いフランストークを、お楽しみに!
(第2回につづく)
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Editor | 三輪 穂乃香
OBIKAKE編集部所属。
Writer | ニシ
美術と日本文化に癒しを求めるライター。記事とシナリオの間で反復横跳びしながら、何らかの文章を日々生産している。