Be-dan
2020.1.20
太田記念美術館の主席学芸員・日野原健司さん。第2回目のインタビューでは、日野原さんが学芸員を目指したキッカケについてお聞きしました。今回は、浮世絵の鑑賞方法や魅力についてたっぷりとお聞きしていきます!
―日本美術の代表的なジャンルである「浮世絵」の魅力について教えていただけますか?
まず浮世絵版画の魅力の一つとして、「色」の美しさが挙げられると思います。浮世絵版画の中でも、多色摺りの作品は「錦絵(にしきえ)」と呼ばれ、その色の鮮やかさは浮世絵の大きな魅力の一つです。その理由は、浮世絵が木版画で作られれているからです。江戸時代の摺師(すりし)達は、木版を何度も摺っていく中で、できるだけ鮮やかな色同士を組み合わせることを重視していました。浮世絵をこれから鑑賞するとき、ぜひ色鮮やかで平面的な色使いを楽しんでみてください。
―作家によって代表色ってありますか?
時代にもよりますが、たとえば19世紀を代表する風景画の名手・歌川広重の作品は「青」が印象的です。
歌川広重「名所江戸百景 猿わか町よるの景」(太田記念美術館蔵)
当時海外から輸入され、日本で新しく使われるようになった鮮やかな藍色の絵の具を使って海や空が描き出されています。これらの青色は、プルシアンブルーやベロ藍などと呼ばれています。
特にベロ藍は木版技術+和紙の組み合わせと非常に相性が良く、日本独特の美しい色合いに仕上がっていますので、その色の鮮やかさを見てもらいたいです。
―色のほかにも注目すべきところはありますか?
「線」の美しさにもぜひ注目してみてください。人物にしても風景にしても、浮世絵はすべて「線」で捉えています。陰影をつけ、よりリアルに描こうとする西洋絵画は、物や人を描くときも輪郭線が無く、色の明暗だけで形を表現しています。その反面、平面的に捉える浮世絵では「線」で人物や風景を描いています。
―平面的というと、マンガみたいですね
そうなんです。日本のマンガやアニメは、完全に「線」でとらえているのです。それに対して、ピクサーなどのハリウッド作品でのアニメーションは、3Dで作られているため、線はありません。キャラクターなどをよく見てみてください。西洋では、アニメーションにも絵画と同じように、常にリアリティを求める感覚があるのではないでしょうか。
―なんだか急に親近感がわいてきました。
そういう意味では、浮世絵は現代の表現と身近なところにあります。もちろん時代が違いますので、今のマンガ的な表現と浮世絵の線の表現は違いますが、「マンガと同じなんだな」と気軽に見てもらえたら、歌川国芳が描いた妖怪画なども、もっと楽しんで鑑賞できると思います。
浮世絵と現代のマンガやアニメが通じていたのには驚きでした。最終回では、日野原さんに初心者でも楽しめる浮世絵の鑑賞方法についてお聞きします!
(第4回へ続く)
太田記念美術館 内観 写真提供:太田記念美術館
information
開館40周年記念 太田記念美術館所蔵 肉筆浮世絵名品展―歌麿・北斎・応為
会場:太田記念美術館
会期:2020.01.11〜02.09
展覧会詳細ページ:https://obikake.com/exhibition/6789/
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Writer | 齋藤 久嗣
脱サラして満3年が経過。現在は主夫業とアート系のブロガー&ライターとして活動中。
首都圏を中心にほぼ毎日どこかの展覧会に出没中。日本美術が特に好みです!(Twitter:@karub_imalive)
Editor | 静居 絵里菜
OBIKAKE編集部所属。