Be-dan
2020.10.19
今月のBe-danでは、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市/以下、歴博)で開催中の、企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」を担当された横山百合子教授にインタビュー!
横山百合子教授
第2回では、展覧会の見どころをたっぷりとお話いただきました。
続く第3回では、横山先生が専門とされている、日本近世のジェンダー史について、詳しくお聞きしていきます!
―横山先生は、今はどのようなことに興味を持たれて、研究されてるのですか?
ここ数年は遊廓について研究しています。
私たちがイメージする遊女は、貧しい家の娘が身売りされ、遊廓で働いている姿を思い浮かべると思います。しかし「性の売買」について歴史的に紐解いていくと、どの時代もそうであったわけではありません。
企画展示「性差の日本史」展示風景
古代には、性を売買するという概念がありませんでした。性の売買つまり売買春(ばいばいしゅん)は、平安時代の半ば頃に始まり、芸能のプロフェッショナルが宴席を盛り上げ売春もするという形、場合によっては宿屋経営も兼ね、遊女の家を女系でつないでいく自営業として行われていました。
江戸時代になると、人身売買によって遊女を得た遊女屋が、幕府の公認を受けて、売買させる遊廓が生まれます。
そして明治期以降になると、表向きは雇い主が座敷を貸して、遊女が自発的に売春するものとされていました。しかし実際には、身売りが多く行われていました。
―世界的に学問として「ジェンダー」が、研究されるようになったのは、いつ頃からでしょうか?
80年代に歴史学の分野で「ジェンダー」という考えを最初に掲げたのは、アメリカの歴史家、ジョーン・W・スコットです。スコットは、文化的・社会的に作られる性差という意味で、ジェンダーという概念を提起しました。
日本では、90年代から「ジェンダー」が学問に不可欠であると考えられるようになって、2000年代に、ジェンダーを研究する学会がさまざまな分野で設立されました。世界的には遅いですね。
以前からある「女性史」の研究とは違い、「ジェンダー」は男女の関係性や、社会的役割などを扱う学問です。
―横山先生が、ジェンダー史の研究に興味を持ったきっかけは、なんでしょうか?
日本近世史を研究する中で、『東京府文書』という資料に巡り合いました。この資料は、明治維新の頃の事件や裁判、行政の指示や災害についてなど、ほぼすべての行政文書をまとめたものです。戦争で多くは焼けてしまいましたが、2万冊以上が今でも残っており、重要文化財になっています。
それだけ膨大な資料の中で、女性が中心となった案件は、遊廓を除けば、たった1つしかありませんでした。
たった1つの案件というのは、浅草寺の南にあった、ウメ、ソメ、カヨという、女性だけで商売している家についてのものです。そこには、「町の集まりに来る家の代表は、男性でなくてはならない」と言われて、トラブルになったという内容が書かれていました。
この『東京府文書』のたった1つの女性についての資料を読み、「人口の半分は女性のはずなのに、記録に残っていないのはなぜだろう」と興味を持ち、研究を始めたのがきっかけです。
―今後の目標を教えていただけますか?
ボーダレス化してきている現代でも、日本では、男女差別はまだまだ大きいです。
また、男女平等に向けて、社会全体が変わってきていますが、一方で男性も女性も、心のどこかで、男は、あるいは、女はこうあるべきだという意識にとらわれ、葛藤もあるのではないでしょうか。
歴史の中の「ジェンダー」の研究を通して、未来へのヒントが発見できるような「ジェンダー」研究を、しっかりと行っていきたいと考えています。
横山先生が担当された企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」では、先生が研究されている遊廓の資料のほか、古代、中世、そして現代までの「ジェンダー」に関する歴史資料を、観覧することができます!
こちらもぜひ、足を運んでみてください♪
企画展示「性差の日本史」展示風景
第4回では、本展の展示準備のために訪れた博物館について、たっぷりとお聞きしていきます。
次回のBe-danもお楽しみに!
(第4回に続く)
information
展覧会名:企画展示 性差(ジェンダー)の日本史
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
会期:2020.10.06〜12.06
開館時間:9:30~16:30(入館は閉館の30分前まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。詳しくは公式サイトをご覧ください。
企画展示会場内の混雑防止のため、会期中の土・
事前予約をされた方は、ご希望の時間にご入室いただけますが、
詳細はコチラをご覧ください。
休館日:月曜日(休日にあたる場合は開館し、翌日休館)
料金:一般 1,000円、大学生 500円、高校生以下無料
展覧会詳細ページ:https://obikake.com/exhibition/12990/
公式サイト:https://www.rekihaku.ac.jp
★他のインタビュー記事を読む
ヤマトグループ歴史館 クロネコヤマトミュージアム館長・白鳥美紀さん
彫刻家・瀬戸優さん
その他のインタビュー記事はコチラ
Editor | 静居 絵里菜
OBIKAKE編集部所属。