Be-dan
2019.9.17
自由で飾らない雰囲気のギャラリー「Diginner Gallery Workshop(ディギナー ギャラリー ワークショップ)」を運営する鈴木宏信さん。
インタビュー第2回では、鈴木宏信さんに、ギャラリー運営という仕事のやりがいについて話してもらいました。
今回は、数多くの作品を見てきた「プロ」の目を持つ鈴木さんから、アートの魅力や鑑賞のコツをお聞きしました。
―鈴木さんは、さまざまなジャンルの作品を見てきたと思います。ご自身の経験から、初心者に対してアート鑑賞のポイントはありますか?
日本絵画や西洋絵画など、メジャーなところから興味を持ち、入門したほうが楽しめるかもしれません。ゴッホとか北斎などの作品を知らない状態で、いきなり現代アートを見ると、見方がすごく表面的になってしまうと思います。
「へえ、アートってこうなんだ。」と、素通りするようにしか見られない。作家さんもたぶん形じゃなくて、中身を見てもらいたいと思います。現代アートから入ると、作品ごとの深みが理解できないまま終わってしまう気がします。
だからスタートは、浮世絵や西洋絵画など、都内でやっている大きな展覧会から見ていくといいと思います。
美術作品は、時代に合わせて段階的に発展しています。たとえば、日本の平面画を見たあと、印象派作品を見ます。印象派が日本美術の「平面」からどのような影響を受けて描かれたのかということが、よく理解できます。
もちろん、作品を直感で見るのもOKです。僕は全部直感で見ていますよ。ギャラリー運営をしているから言えることだと思いますが、直感で見ていながらも有名になっていく作家の作品は、素通りできない“なにか”を持っています。
アーティストの名前とか経歴、有名な作品などの事前知識があると、いざ美術館で作品を見るとき便利かもしれません。知識があれば直感がついてきます。楽しいアート鑑賞をしてください。
―お話を聞いているところ、鈴木さんは現代アートがお好きなのでしょうか?
現代アートと同じくらい、印象派もすごく好きです(笑)子どもの頃、トイレに飾ってあった印象派のカレンダーを、ただ見るだけでは飽き足らず、模写をしたことがあります。その頃の記憶が今まで根強く残り、国立西洋美術館など西洋絵画の展覧会によく行きます。
マティスやセザンヌが、絵を日本画のように「平面」にするために、奥行きを無くすまでの試行錯誤した形跡を見ることや、ゴッホの「アルルの寝室」みたいな歪んだ空間も大好きです。初めて見たとき、「何なの? この変な部屋」と思いました。変すぎて「なにこれ?」と首を傾げたのも、覚えています。
今でも僕の興味は全部、少年時代の記憶から派生しているのかもしれません。
―身近なところで、アートに興味を持ったのですね。では、ギャラリーを経営されている現在は、作品に対する審美眼をどうやって鍛えていますか?
美術とは全く関係ないことをします。たとえば山に登りに行くとか。ハードな山登りで疲れてくると、一種の「ランナーズハイ」みたいなものがやってきますよね。疲れすぎると、「もう地獄!」だと思うところを通り越して、頭のてっぺんあたりから、何かがスパークするんです。その時に出てくるイメージがすごく面白くて。
たとえば、普段の道端だと見向きもしない雑草や小石などに目が向いたり、雨に濡れたあとの景色に日が当たると、神秘的に見えたりしませんか? 自然に朽ちた木など、「インスタレーション作品だ!」と、ただの朽木がすごいアーティストが作った作品に見えます。
自然って勝手気ままにやってるな、ということに気がつきます。
こうやって、美術とはあえて違う環境に身を置き、普段働いていない脳の別の部分を覚醒させるようにしています。
―美術の勉強というよりは
「感覚を呼び戻す」ということですね。理屈ではなく、自分の中にフックする瞬間ってあるじゃないですか。プロセスを踏んで構築されたものとは違うところで、アートって気づく感覚だと考えています。(第4回へ続く)
information
Digunner Gallery Workshop
カザマナオミ個展 ハミダシタシュー
2019.09.06〜2019.09.16
展覧会詳細:https://obikake.com/exhibition/750-2/
公式サイト:http://diginner.com
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Writer | 齋藤 久嗣
脱サラして満3年が経過。現在は主夫業とアート系のブロガー&ライターとして活動中。
首都圏を中心にほぼ毎日どこかの展覧会に出没中。日本美術が特に好みです!(Twitter:@karub_imalive)
Editor | 静居 絵里菜
OBIKAKE編集部所属。楽しくやっています。