Be-dan
2019.7.8
【第2回:杉全美帆子さんの挑戦!社会人になってからのイタリア留学について】
前回のインタビューで、最後に「イタリア」というキーワードが出てきました。実は、杉全美帆子さんは一度社会人として就職した後、一念発起して27歳のときに留学を決意。イタリアで7年間美術を学ばれているのです。そのユニークなキャリアについてじっくりお聞きしてみました。
―美大を卒業してから、一旦は普通に社会人として就職されたんですね?
そうなんです。大学では油絵を学んでいたのですが、やっぱり油絵で食べてはいけないと思い、現実的に就職を選びました。
実は祖父がわりと著名な画家(※杉全直氏)で、父もカメラマンをやっていたりして、みんなカタギじゃないんです(笑)。だから、朝起きても杉全家は誰もスーツを着て家を出ていかない。ならばここは私が一発サラリーというものを取りに行くんだと思いまして、小さな広告制作会社にデザイナーとして就職しました。
でも、最初の会社は激務過ぎ、次に入った広告会社は逆にゆったりし過ぎでしっくりこなくて。その時27歳になっていたのですが、ふと今までにやり残したことは何だったのかを考えた時に、思い浮かんだのが、自分の中の「外国コンプレックスを克服したい」ということだったんです。
―美術を学びたい、ということではなく外国への苦手意識を払拭するために留学を決意したということなのですか?
それが大きかったですが、仕事でコンピュータを使った作業ばかりしていたので、また自分の手を使って絵も描きたいな、とも思っていました。
本当に世界中どこでもよかったのですが、大学の卒業旅行で巡ったヨーロッパの記憶を辿ったらフィレンツェの印象が良かったので、フィレンツェにしたんです。はじめは3ヶ月で帰るつもりでフィレンツェの語学学校に入りました。
フィレンツェのドゥオーモ
ところが、イタリア語はちっともわかるようにならないし、孤独だし、宿題は大量に出されるしで毎日ヘトヘトに疲れ切ってしまいました。腰掛けで半分物見遊山のつもりだったのに、もう絵を描くどころか美術館にすら行く体力すら残っていなくて。
でも、ある時、下宿先で日本から持っていったフレスコ画の本を開いて、さすがにジョットの壁画くらいは見ておかなきゃとチェックしていたら、その壁画のある場所がなんと私の下宿先から5mと離れていない所に建っていた教会の中だったんですよ。それで、すぐに行ってみたら本当にジョットの壁画がどーんとあって。それを見たときに完全にやられちゃって。ジョットの壁画から発せられてくる神々しい光を浴びながら、「あー、なんか私この世界で頑張ろう!」みたいな感じになっちゃったんです。
ジョットの壁画のあるサンタ・クローチェ教会の内部
―運命的な出会いをされたんですね?!その後はどうされたんですか?
そこから急いでジョットの他の壁画作品など、有名な史跡・美術館を回り出したのですが、でももう時間切れでした。ビザなしで滞在できる3ヶ月間が終了してしまい、一度日本に帰りました。それで、今度はできるだけ長くビザを更新しないで滞在できるよう、本気で美術を勉強できるようイタリアのアカデミア(国立美術大学)に入っちゃおうと決意したんです。日本のイタリア大使館などで受験申請の手続きをして、またイタリアにとんぼ返りしました。そして受験のためのデッサン練習を再開したり、語学学校でイタリア語を勉強して・・・。
―えーっ。まさかの急展開!そのあとはどうなったんでしょうか?
ボローニャのアカデミアに油絵専攻で無事に入学しました。そこで次の運命的な出会いをしました。美術史の授業の魅力に取り憑かれちゃったんです。アカデミアでの美術史の授業は、日本の大学でやるような基礎的な講義ではなくて、教授がつっこんで研究しているディープなテーマの話を1年間聴くんですよ。
私が取った講義では、「悪魔の美術表現」に着目した通史をやろうとしていて、それが深くてすごかったです。メソポタミアなどの人類の文明起源から始まって、現代の悪魔表現映画まで通して見ていくのですが、そうなるといろいろな知識が必要となってくるんですよね。
歴史・宗教・文学・哲学・音楽・心理学など他分野の知識を総動員して紐解いていく面白さと、視点や切り口ひとつで美術品が全く違う見方ができるのだということを教えてもらって、そこから美術史に引き込まれました。
いかがでしたでしょうか?普通の社会人生活を送っていたのに、思い立ったら一直線で行動して、現地でジョットの壁画や美術史という学問に運命的な出会いをするなど、まさにドラマのような留学生活を送ってこられた杉全さん。この話は来週も続きます!
(第3回に続く)
杉全 美帆子(すぎまた みほこ)
作家・イラストレーター
女子美術大学、イタリアのアカデミア・ディ・
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Writer | 齋藤 久嗣
脱サラして満3年が経過。現在は主夫業とアート系のブロガー&ライターとして活動中。
首都圏を中心にほぼ毎日どこかの展覧会に出没中。日本美術が特に好みです!(Twitter:@karub_imalive)
Editor | 松栄 美海
OBIKAKE編集部。学生時代は美大で彫刻を学ぶ。IT企業を経て昨年9月よりWEB担当として入社。
OBIKAKEの立ち上げを担当。編集や撮影について日々勉強中。