Be-dan
2020.10.26
今月のBe-danでは、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市/以下、歴博)で開催中の、企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」を担当された横山百合子教授にインタビュー!
最終回は、本展の展示をする上で、横山先生が訪れた博物館について、お話をうかがいました!
横山百合子教授
―横山先生が印象に残っている博物館はありますか?
本展の企画準備のために、アメリカや台湾など、あちこちの博物館へ行き、「ジェンダー」がどのように展示されているか調査をしました。なかでも印象的だったのは、シンガポール国立博物館です。
シンガポール国立博物館の展示は以前、19世紀にシンガポールが、イギリスに植民地化されて近代化したことを紹介するものでした。しかし近年、「多様性」をテーマとして展示が一新されました。
新しくなった展示では、インド人や中国人、マレー人が暮らす中に、植民地化してやって来たイギリス人も加わって、多くの民族からシンガポールは今も成り立っているという、ということを分かりやすく紹介しています。その中で「ジェンダー」も、多様性の大事な要素の1つとして扱われていました。
―その国の歴史をまじえた、展示の工夫がされているのですね。
この博物館の一番大きなフロアの中心にある展示物を観て、とても驚きました。何が展示されているか、皆さんも少し考えてみてください。
実は、人力車が展示されていたんです。
参考サイト:シンガポール国立博物館公式ホームページ(外部リンク)
日本で発明された人力車は、アジア各国に輸出されました。特に、シンガポールの狭い土地にはピッタリの乗り物でした。それを引っ張る車夫という下層労働者の力に、シンガポールがどれだけ支えられていたのかを表すシンボルとして、イギリスの植民地の役人たちの肖像がならぶ部屋の中央に展示されていました。
教科書に出てくる英雄や、政治家を中央に展示して紹介するのではなく、下層労働者にスポットライトを当てる大胆さにとても驚き、そして興味深いと思いました。この博物館では、首相夫人から工場労働者まで、女性もさまざまな視点から扱われています。
―日本でも、横山先生おすすめの博物館はありますか?
日本でしたら、地域密着の博物館がおもしろいと思います。
最近では、大田区にある「大森 海苔のふるさと館」という資料館に行きました。大田区では、ずっと海苔の養殖をしていました。ここでは、技術やその文化を展示し、紹介しています。あとは、江東区にあった中川船番所を再現している「中川船番所資料館」や、地方では、「北海道博物館」のアイヌの展示もいいなと思いました。
大森 海苔のふるさと館外観
京急平和島駅から徒歩15分。入館無料。
登録有形文化財にも指定されている「昭和くらしの博物館」の展示も、とてもユニークですね。こちらは、昭和26年建築の東京郊外にある庶民の自宅を、博物館として公開しています。
展示物をみせるというより、暮らしのノウハウを味わえるという展示が素晴らしいですね。
このような展示の仕方を見ていると、私が研究している「ジェンダー」の見せ方も、工夫できると思います。
これからさまざまな形で特集できたり、地域や階級階層、性差などテーマ別で「ジェンダー」をみせるなど、そういう展示ができるのではないかと、アイディアをもらえます。
―最後に博物館で働きたいと考えている人にメッセージをお願いします。
博物館の仕事は、学芸員や研究者が、調査・研究、展示を一方的にするものではなく、来館者やボランティアスタッフなど、たくさんの人に支えられてできる仕事です。
歴博でも、来館者に書いていただくアンケートの感想やボランティアの方たちの意見には、思いがけない発見もあり、博物館の運営にとても役立っています。
今後、博物館で働きたいと思っている方はぜひ、来場者やボランティアスタッフを含め、双方向的なコミュニケーションの場となるような、博物館のあり方を探っていってほしいです。
そのためにも、少しでも調査や勉強の時間を確保し、ともに頑張っていきましょう。
いかがでしたか?
4回にわたり、国立歴史民俗博物館の横山百合子教授に、今回の展覧会について、また「ジェンダー」についてたっぷりとお聞きしました。
先生が担当された企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」は、2020年12月6日まで開催中です! こちらもぜひ、足を運んでみてください。
企画展示「性差の日本史」展示風景
来月のBe-danもお楽しみに!
information
展覧会名:企画展示 性差(ジェンダー)の日本史
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
会期:2020.10.06〜12.06
開館時間:9:30~16:30(入館は閉館の30分前まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。詳しくは公式サイトをご覧ください。
企画展示会場内の混雑防止のため、会期中の土・
事前予約をされた方は、ご希望の時間にご入室いただけますが、
詳細はコチラをご覧ください。
休館日:月曜日(休日にあたる場合は開館し、翌日休館)
料金:一般 1,000円、大学生 500円、高校生以下無料
展覧会詳細ページ:https://obikake.com/exhibition/12990/
公式サイト:https://www.rekihaku.ac.jp
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Editor | 静居 絵里菜
OBIKAKE編集部所属。