Be-dan
2019.7.22
【第4回:あなたにとって美術館とはどういう場所ですか?】
杉全美帆子さんへのインタビュー最終回は、杉全さんならではの独自の視点で、オススメの美術館やズバリ美術館とはどういうところなのか、ミュージアムに対する熱い想いをお聞きしてきました!
―杉全さんは、もう5年以上東京新聞の連載「おとなのための美探訪」で毎月美術館へ取材に行かれていますが、とっておきのオススメ美術館などありますか?
2つあります。まず、ちょっとマニアックかもしれないですが、群馬県桐生市にある「大川美術館」です。創設者大川栄二氏は普通の一会社員から出発し、自分のサラリーを投じてコツコツと約40年かけて日本の近代洋画家・松本竣介を中心に作品や資料を集めました。そのコレクションを広く見てほしいと作ったのがこの美術館です。
東京新聞2019年5月14日掲載「おとなのための美探訪 大川美術館」より
留学前、たまたま松本竣介の風景画について調べている時に見つけたのですが、行ってみると常設展示で見た松本竣介や同時代に生きた前衛画家たちの作品や写真、資料などが素晴らしくて。松本竣介と仲間たちが残した直筆の手紙や文献を読み込んでいくと、彼らの真摯な生き様や優しさなんかが身に染みるようで大感動しました。
都心から離れた小さな美術館なのですが、ここの常設展は作品だけでなく作品に関わった「人物」たちから大切なものを学べるので大好きなんです。
―他には最近行かれた中でオススメの美術館はありますか?
東京新聞の取材で訪問した山種美術館ですね。もともと私は日本画家の作品はあまり好みではなかったんです。でも山種美術館で出会った奥村土牛や菱田春草の作品が、本当によく見えたんです。
東京新聞2018年6月12日掲載「おとなのための美探訪 山種美術館」より
美術館創設者の山崎種二氏の生き様も面白かったですね。米相場で毎日切った張ったでシノギを削ってきたプロの相場師が、美術鑑賞に癒やしを求め、作品を収集し始めた。それが美術館の基礎になっているそうです。展示されている作品一つひとつが穏やかで美しく、心に響く感じがしました。
―最後に、ずばり杉全さんにとって、美術館ってどういう場所なのでしょうか?
美術館は今の私にとって、ずばり「対決の場」だな、と思っています。
「そこで出会うもの」と「自分の感性」との戦いですね。毎月美術館に取材に行って、私なりに全力を投じて記事を作るようにしているのですが、取材段階で今ひとつ盛り上がらなかったテーマも、どこまでベストを尽くせるか、半ば自分試しのようなつもりでやらせてもらっています。
なので取材する時は、まさに勝負をしに行く気分です。私が美術館で戦っている相手は、「作品とその作品を創った人」だったり、「作品が成立するために必要だったパトロン」「美術館を作った人」だったりと、あくまでも「対・人との戦い」に感じているので、「対決の場」だなって捉えています。
―まさに真剣勝負なのですね。
そうですね。そしてハンターのような目で、自分の心の琴線に触れるものはないか探しています。もしくは嫌悪感をもよおすものでもアリです。何でもいいから心が動く何かがないか、目をギラギラさせて歩き回ってます(笑)。そして、メイン作品と対峙する時が一番緊張しますね。向こうはこちらの都合や趣味など預かり知らず、ガンガン主張してきますから。そのアピールと自分がどう折り合うかがポイントです。その時「ああ、いいな、なんか好きだな」と思えたら最高ですね。
―自分の好みの作品に出会えたら幸せですよね。
そうですね。なかなかそういうものには出会えないというのも現実だな、と6年の取材を重ねて実感しつつあります。そんな時は、相棒の出田記者の感性にたよったりします(笑)。彼女と私とはいい感じに視点がずれているので、私が思いもよらないような反応を示してくれるので、とてもありがたい存在です。そんな具合なので、出会った作品が自分にとって「ハズレ」だったとしても、それは決して悪いことではないと思うんです。美術館で嫌いなものに遭遇したとしても「私はこういうのは嫌いだ。しかし、なぜ嫌いなのだろう。好きな人もいるらしい。好きな人はいったいこれのどこが好きなのだろう」と考えることで、他人の感性に対する理解へのきっかけにもなると思うんです。
美術館は「自分を知る場所」であり「他人も知れる場所」だと思います。必ず何かあるので、ぜひ皆さんにも積極的に「出会いを求めて」美術館に足を運んでほしいですね。
左から杉全さん・記者の出田さん・編集の竹下さん
以上今回も4週に渡ってお届け致しましたが、いかがでしたでしょうか?
Be-danも4人目となり、いろいろな切り口が見えてきたのではないでしょうか?
さて次回のBe-danは…?
杉全 美帆子(すぎまた みほこ)
作家・イラストレーター
女子美術大学、イタリアのアカデミア・ディ・
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Writer | 齋藤 久嗣
脱サラして満3年が経過。現在は主夫業とアート系のブロガー&ライターとして活動中。
首都圏を中心にほぼ毎日どこかの展覧会に出没中。日本美術が特に好みです!(Twitter:@karub_imalive)
Editor | 松栄 美海
OBIKAKE編集部。学生時代は美大で彫刻を学ぶ。IT企業を経て昨年9月よりWEB担当として入社。
OBIKAKEの立ち上げを担当。編集や撮影について日々勉強中。