Be-dan
2019.7.29
インタビュー第1回では、OBIKAKE編集部がこの秋最も注目したい音楽公演「グレの歌」の概要やストーリーについてお聞きしました。
第2回でも引き続き、ミューザ川崎シンフォニーホールの広報・前田明子さんにお話を伺っていきます!
「ウィーン・モダン」展(2019.04.24-~08.05)の関連展示に触れながら、「グレの歌」作曲者であるシェーンベルクの多才な才能や、彼が音楽や絵画などを通じて本当に表現したかったものが何だったのかを詳しく掘り下げます。
アルノルト・シェーンベルク
《シェーンベルクの娘ゲルトルートの肖像》
1910年 油彩/カンヴァス ウィーン・ミュージアム蔵
©Wien Museum / Foto Peter Kainz
※「ウィーン・モダン」展出品作品
―「グレの歌」を作曲したシェーンベルクは、世紀末のウィーンでは音楽活動と並行して絵画も手掛けていたんですよね?
はい。「ウィーン・モダン」展の第4章でも数点の絵画で特集されている通り、世紀末のウィーンにおいて彼は「新ウィーン楽派」のメンバーとして活躍した一人だったんです。
ちょうど、マーラーやブラームスなどに影響を受けた後期ロマン派の一員としてキャリアを開始して、後に現代音楽へとつながる「無調音楽」や「12音技法」など独自の音楽理論を模索していたのが、彼のウィーン時代でした。
おっしゃる通り、この時期は音楽だけではなく、絵画作品も手掛けていたんですよね。
アーノルド・シェーンベルクによる自画像 テンペラ、キャンバス 1910年
Arnold Schönberg: Self-Portrait Tempera on canvas 1910
With kind support of the Arnold Schoenberg Center, Vienna
―「ウィーン・モダン」展では、彼の絵画作品を通してシェーンベルクの交友関係なども見えてきますよね?
そうです。たとえばこちらを見てください。
アルノルト・シェーンベルク
《グスタフ・マーラーの葬儀》1911年
油彩/カンヴァス ウィーン・ミュージアム蔵
©Wien Museum / Foto Peter Kainz
※「ウィーン・モダン」展出品作品
これは、彼が敬愛したマーラーの「葬式」を描いた作品です。
当時の保守派に対して自らの信念を通し、新しい音楽を追求していた2人は、作風こそ違いましたが、お互いにシンパシーを強く感じていたのだと思います。彼らは1902年頃から親しく交流し始めますが、ウィーンで開かれたシェーンベルクの個展で、ただひとり絵画を買い上げたのがマーラーだったとか、マーラーが保守派の批判から逃れるため、1907年にウィーンを去ってニューヨークへと渡らなければならなかった時にも「無知なウィーンの保守派は、こんなにも素晴らしい作曲家を追い出すのか」と嘆き、ひざまずいて泣いたとか、様々なエピソードがあります。
この作品はシェーンベルクが自身の心情を重ねているのか、画面内に描かれた木まで元気がなく、泣いているように見えますよね。
―本当にマーラーのことを敬愛していたのですね。シェーンベルクがこの時期に目指していた音楽は、保守派の作風と具体的に何が違ったのでしょうか?
一言でいうと、シェーンベルクは心の内面や感情表現を作品の中で表現することを第一に考えていました。
例えば「グレの歌」でも、ヴァルデマールとトーヴェの掛け合いでは、オーケストラでも独唱でも、非常にドラマチックで複雑な感情表現が聴きどころの一つなんです。オペラって、現代に生きる我々から見ると非現実的な筋立てが多く、感情移入しづらいストーリーも多いのですが、「グレの歌」では100年後に生きる現代の私達でも理解できる、シリアスな男女の情念をしっかり描写しているんです。
―それは絵画でも同じだったのでしょうか、シェーンベルクの絵画作品は写実よりも心の内面を描き出すことに主眼を置いた「表現主義」に分類されていますよね。
そうですね。弟子のアルバン・ベルクを描いた作品にしてもそうですし、見たままを写実的に描くよりも、色彩やかたちを通して心の内面を描き出そうとしているのが伺えますよね。
こちらを向いて自信ありげな不敵なポーズを浮かべる弟子から、シェーンベルクは何を感じていたのか考えながら鑑賞すると面白いです。
アルノルト・シェーンベルク
《作曲家アルバン・ベルクの肖像》1910年
油彩/カンヴァス ウィーン・ミュージアム蔵
©Wien Museum / Foto Peter Kainz
※「ウィーン・モダン」展出品作品
このように、シェーンベルクが絵画でも音楽でも、人間の「内面」の心の動きに着目した作品をとりわけ多く残したのが、「ウィーン・モダン」展で特集された19世紀末~20世紀初頭の時代だったんです。
この後、シェーンベルクは「無調音楽」へと傾倒し、全然違う音楽の作り方になっていくので、この「グレの歌」はシェーンベルクの生涯における前半の節目となる特に大切な作品なんです。
―まさにキャリア初期~中期までの集大成的な作品ということですね。
そうなんです。1901年から1911年という、10年以上もの時間をかけて書き上げられた曲なので、第1部の前半と第3部のラストでは、作風も微妙に変化しているのも面白いです。
ぜひ、シェーンベルクの絵画を感じながら、じっくりと「グレの歌」を味わっていただきたいですね!
(第3回に続く)
シェーンベルクの集合住宅前にて
1910/11
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ミューザ川崎シンフォニーホール
開館15周年記念公演
シェーンベルク「グレの歌」
※日本語字幕あり
2019年10月5日(土)15:00開演
2019年10月6日(日)15:00開演
(各14:15開場/途中休憩1回/17:15終演予定)
主催:川崎市、ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市文化財団グループ)
共催:公益財団法人 東京交響楽団
後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム
With kind support of the Arnold Schoenberg Center, Vienna
グレの歌公式ホームページ
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/gurre/
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★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
展覧会名:ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道
会期:8月5日(月)まで好評開催中
会場:国立新美術館 企画展示室1E
展覧会ホームページ:https://artexhibition.jp/wienmodern2019/
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Writer | 齋藤 久嗣
脱サラして満3年が経過。現在は主夫業とアート系のブロガー&ライターとして活動中。
首都圏を中心にほぼ毎日どこかの展覧会に出没中。日本美術が特に好みです!(Twitter:@karub_imalive)
Editor | 三輪 穂乃香
OBIKAKE編集部所属。のんびりやってます。